最大500人参加、期間は10年以上--経理標準化プロジェクトが最終工程に進むLIXILの戦い - (page 2)

石田仁志 藤代格 (編集部)

2021-08-02 07:00

 また4月には、会計領域以外の住設、金属事業のS4/HANA基幹システムも稼働を開始しており、住設事業の在庫と原価管理(住設在原)のSAP導入を、経理標準化推進室の主導のもと生産部門と共同で実施している。

 実はそれまで、会計帳簿は統一したものの、基幹システムが別々のままだったため、各社の原価計算方法は異なっていたのである。「各社それぞれ監査を受けているため監査上の問題はなかったが、業績管理という観点で課題が出てくる。そこで原価計算を1つにする、つまり在庫の帳簿を1つにするという活動を経理標準化と同時に進めた」(濱邉氏)という訳である。“100年近い歴史がある企業の原価計算方法を変える”こととなるため、3年半を費やす最も大変なプロジェクトになったと濱邉氏は振り返る。

 「SAPの『MM(Material Management、在庫管理)』モジュールと『CO(Controling、原価管理)』モジュールを入れると、歩留まりや仕損じを含めて原価の内訳を子細に見られるようになる」(濱邉氏)。そのままでも業務は回るが、導入の意味、会社という全体と各現場双方にあるメリットなどを理解してもらい、数字の適正性を各工場で1年間、ダブルインプットでしっかり見てもらうなどの現場の協力を得て取り組んだという。

 これにより、在庫管理や原価計算の精度が飛躍的に向上。時間をかけた分導入はスムーズに展開でき、大きなトラブルもなく先だっての四半期決算も無事に乗り越えられたとしている。

5社統合ならではの課題も

 そして、複数の新しい基幹システムが稼働した環境で円滑な決算処理を実現したもうひとつの要因が、central financeの導入である。

LIXIL 情報システム部 哘氏
LIXIL 情報システム部 哘氏

 central financeを活用することで、複数の基幹システムが存在しても、モノからお金まで同じ粒度で情報を管理できるようになる。経理標準化プロジェクトのデジタルサイドの責任者であるLIXIL 情報システム部の哘(さそう)満寿雄氏は、「事業ごとの基幹システムと会計領域それぞれで段階的に導入するという全体計画の中で、central financeがあったことで会計の情報を簡単に集めることができた。会計の帳簿から元の伝票に戻れるような『ドリルバック』機能も備わっていて、個別にインターフェースや特別な仕組みを作らずに済んだ」と効果を語る。

 導入のテスト段階などでは、データ量が膨大なためにロジスティック側の処理が終わっても会計側への取り込みが大幅に遅れるなどの5社統合ならでは課題も出たが、「SAPジャパンやコンサルティングのアビームコンサルティングの担当者に課題対応をしてもらって今は円滑に動いている」と哘氏は話す。

 なお、経理標準化プロジェクトのここまでのリソースについては、業務側が10人、デジタルサイドが社内で30人、そのほかアビームのメンバーを加えて70人程度のコアメンバーが常時携わっている。そして最大時には、デジタル領域だけで200人、さらに工場などの現場の人間を含めて500人程度が参加する大規模な開発プロジェクトになっている。

稼働の鍵を握る“計画立案”とシステムの“手当て”

 そして7月からは、第2フェーズとして「SD(Sales and Distribution、販売管理)」モジュール、「FI-AR(Accounts Receivable、債権管理)」サブモジュールの導入プロジェクトが開始されており、ここが完了すると会計領域のSAP導入はいったん形が整うことになる。ゴールは2023年4月だが、ここから数カ月が第2フェーズの山場になると濱邉氏はいう。

 「今から2023年4月段階でどうなっているかの絵を描いて、それに向かって計画を立てる。そこをいかに充実させられるかが、稼働を左右する」と、これまで苦労を乗り越えて複数のシステムを稼働させてきた体験も踏まえて語る。

 またそのほかに、システム側の裏支えも欠かせない要素となる。これまでも一つひとつ基幹システムが稼働してきた裏側では、既存システムとの連携やプロジェクト通りにシステムを稼働させるためさまざまな“手当て”を施し、安定稼働を実現してきた。例えば2018年のIFRS対応時も、OracleのERPのデータをSAPで取得してIFRSの帳簿を実現するというような迂回措置を行っており、まだ社内では古い会計の仕組みも動いている。

 「開発メンバーはTo Beも見るが、As Isも一緒に見ながら仕事をしている。SDやFI-ARを入れるにあたっても、まだ既存系の仕組みがたくさん動いていて暫定的な対応が必要。To Beの形に切り替えるまでは、どういう配置で動かしていくかが一番の肝になる」と哘氏は今後を見据える。さらに2023年4月以降も、古いシステムを順番に止めていくという後始末の活動が残る。「その時まで、知見を持ったSAPやアビームのメンバーと一緒に取り組んでいきたい」(哘氏)

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