IHIにおけるエンジン制御システムのソフトウェア開発とデジタル化

國谷武史 (編集部)

2021-08-24 06:00

 IHIは、航空機のエンジン制御システムのソフトウェア開発において国内では古くからデジタルの手法を導入している。さまざまな業界・業種の企業や組織がデジタル化に乗り出す昨今、その取り組みを軌道に乗せる上でIHIの事例には学ぶポイントが多い。経緯や定着化の取り組み、現状における成果や課題などについて航空・宇宙・防衛事業領域技術開発センター 制御技術部 システム技術グループ主査の坂井俊哉氏に聞いた。

IHI 航空・宇宙・防衛事業領域技術開発センター 制御技術部 システム技術グループ主査の坂井俊哉氏
IHI 航空・宇宙・防衛事業領域技術開発センター 制御技術部 システム技術グループ主査の坂井俊哉氏

 エンジン制御システムは、1950~1960年代は油圧機械制御が主流だったが、1970年代には技術的な限界とコンピューター技術の台頭を受けて電子制御と油圧機械制御のハイブリッド化が起きた。現在は電子制御がメインになり、民間航空機で電子制御の多重系統化、戦闘機では電子制御を油圧機械制御がバックアップする構成が多い。電子制御の導入は、高精度のエンジン制御やデジタルデータを活用した故障診断・予防保全、ソフトウェアバージョンアップによる改善――などの効果をもたらしているという。

航空機エンジン制御システムの歴史
航空機エンジン制御システムの歴史

 坂井氏によれば、エンジン制御システムのソフトウェア開発におけるオートコードツールの導入は、航空機エンジンのメーカーであるGEやRolls-Royceなど海外が先行した。ソフトウェア開発はアセンブラー言語を使ったハンドコーディングだったが、ツールが人に変わってコーディングすることで、使用されるコードの統一化や正しいコードの再利用化、手入力によるミスの発生リスクの低減化が図られ、ソフトウェアの品質を高められるからだった。IHIのオートコードツール導入は、ハンドコーディングが主流だった国内では先駆けだったが、世界的には普及期のタイミングだったそうだ。

 2000年代に入ると、シミュレーションを活用したモデルベース開発(MBD)が本格化する。IHIでは、MathWorksのSimulinkを導入してエンジン制御アプリケーションのロジックを設計し、シミュレーションを使ってコードの入力値に対する実行結果を見るロジックの検証を行うようになった。2010年代からはSimulinkとオートコードツールを連携させており、コーディングやオートコード用のモデル作成におけるバグの混入はゼロ件という。

IHIにおけるモデルベース開発の取り組み
IHIにおけるモデルベース開発の取り組み

 こうしたソフトウェア開発手法は、航空機では標準となりつつあり、各国の航空当局から機体の認証を受ける上でMBDによる開発が1つの基準になっているという。自動車業界でも「HILS(Hardware In the Loop Simulator)」として定着している。航空機や自動車などでのトラブルは人命に大きく影響するだけに、ソフトウェアが設計で意図した通りに動作しシステムや機器を正しく制御することで、絶対的な安全性と極めて高度な品質を担保しなければならない。

 昨今ではITシステムに対する社会の依存度も高まりつつある。社会インフラにまつわるシステムは変更頻度が少なく数十年単位で運用されるのに対して、ITシステムは変更頻度が多く数年単位で運用されるように、違いはあるものの、安全性や品質の要件を考える上で、航空や自動車などのケースが参考になるだろう。

 IHIはMBDの導入で30年近い経験を持つが、初期には手作業からデジタル開発への移行に際して、わずかな変更でも一つひとつ検証し安全を確認してから適用するという慎重で地道な取り組みを進めてきたという。MBDやオートコーディングが主流の現在でも、こうした変更などへの対応はほぼ同じだという。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ZDNET Japan クイックポール

注目している大規模言語モデル(LLM)を教えてください

NEWSLETTERS

エンタープライズ・コンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]