遅れたことの言い訳に「遅くなっても、やらないよりましだ」という言い方をよく耳にします。しかし、ビジネスにおける意思決定のためのデータや情報となると、古いデータはほとんど役に立ちません。
例えば、映画『アルマゲドン』の後半、Bruce Willis演じるハリーをはじめとする登場人物が、猛スピードで地球に接近する小惑星の存在を見つけます。しかし、情報の入手が遅すぎたため小惑星の落下を阻止することができず、全員が生き延びることはできませんでした。6人の友人の日常を描いた人気テレビドラマ『フレンズ』では、主人公グループの中で交際関係にあったロスが別れを取り消しにしたいというレイチェルの留守電メッセージを翌朝まで聞くことがありませんでした(彼が下した決断について、具体的に話す必要はないでしょう)。この2作品の例で重要なのは、情報がリアルタイムに伝わっていたならば、おそらく別の決断が下されていたであろうということです。
同じことが今日のビジネスでも起きています(もっとも、これほどドラマチックではなく、世界が終わるなどということは起こりませんが)。あまりにも多くの企業が、行動を起こす際に、いまだに古いデータに頼っており、場合によってはデータが数カ月前のものということもあります。このようなやり方では損害を与えかねません。
古いデータをめぐっては、最近報じられた、AstraZenecaの臨床試験に関する告発が記憶に新しいでしょう。AstraZenecaが新型コロナワクチン感染症の米国での治験に関する「古い」情報を使用した結果、「治験の有効性に関するデータが不完全だった可能性がある」というものです。その後、AstraZenecaは結果を受け入れ、データ安全性モニタリング委員会(DSMB)と緊密に連携して、最新の有効性データによる分析を公表しました。この件は、可能なかぎりリアルタイムに近いデータに基づく意思決定がいかに重要であるかを示しています。これはパンデミックから得られた教訓の一つといえるでしょう。いかなる組織、企業、政府も、古いデータに依存することがあってはならないのです。
データとの向き合い方を変える
ここで、データやアナリティクスに対する認識を変える必要があります。第一に、データはスプレッドシート上の動かない数字の集合ではなく、呼吸をしている「生き物」として扱われるべきだということです。このような考え方の変化が、ひいてはビジネスインテリジェンス(BI)に対する発展した新しいアプローチにつながります。受け身なデータ消費から、積極的なインテリジェンスへの移行こそが、現在の企業が目指すべき到達点です。継続的にデータを収集し、インサイトを活用して、行動を起こすことが必要となります。
これを達成する唯一の方法が、ほぼリアルタイムなデータ活用です。数カ月前のデータをもとに行動を起こしても意味がないのは明らかです。私たちが現在生きている世界は目まぐるしいスピードで動いています。このことを見事に要約しているのが、「データの年の取り方は魚と同じである。ワインのように熟成することはなく、古くなるほど悪くなる」という、データ品質の専門家であるGregg Thaler氏の言葉です。
多くの企業は良質なデータがもたらす価値を理解し、アナリティクスに対応する準備を進めています。今必要なのは、次の段階である「ビジネスへの対応」です。そのためには、データのコンテキスト、ビジネスロジック、信頼性が必要です。データのサプライチェーンが適切に管理され、データがどこからどのようにして集められたのか、最後にどこで更新されたのか、誰がアクセスできるのかが分かる環境を整えることが必要です。その上で、人間が分析や問題提起を行い、機械学習や人工知能によるサポートも活用しつつ、このアナリティクスデータパイプラインから得られたインサイトをビジネスロジックと情報に基づく行動へとつなげることが可能になります。
ビジネスの重要な局面を逃さないために
ビジネスの重要な局面で、情報に基づく行動を取ることにより、企業は形勢を変えることができます。しかし、あくまでも新しいデータを使用することが前提です。3週間前に適切であったであろう行動を起こすことはできるかもしれませんが、状況は既に大きく変わっています。特定の市場や顧客セグメントでの機会が見つかったとしても、「データが最初に入手可能になった4カ月前に見つけてさえいれば競争で優位に立つことができたのに…」という事態になってしまいます。今となっては貴重な時間が失われ、せっかくのアドバンテージが台無しになってしまうというわけです。データに対する積極的なアプローチは、どの段階においてもビジネスの活力を高め、ビジネスリーダーとそのチームがトップに立つための鍵となるものです。
意思決定においてほぼリアルタイムのデータを使えることは、企業の有力な武器となります。データのスランプ状態から脱却し、データ活用に対しより積極的になることで新たな機会が生まれ、近づきつつある小惑星との衝突から逃れられることは間違いありません。