DX(デジタル変革)の推進には、個別のデジタル化施策にとどまらず、組織カルチャーの変革を含む多岐にわたる取り組みが必要です。そのためには、経営層、ミドルマネージャー、現場スタッフを含む全ての従業員がDXの重要性とデジタル化の本質的な意義を正しく理解し、自分事として捉えて取り組む必要があり、全社的なデジタルリテラシーの向上が不可避といえます。
デジタルリテラシーの向上が求められる背景
多くの企業がDXに取り組んでいますが、円滑に進んでいる企業は必ずしも多くありません。DXの推進には、個別のデジタル化施策にとどまらず、制度や組織カルチャーの変革を含む多岐にわたる取り組みが必要であり、経営者が旗を振り、DX推進組織が孤軍奮闘するだけではうまく進みません。特に重要なのは、変革の本丸となる事業部門の現場スタッフの積極的な関与といえますが、多くの推進者から「事業部門の協力が得られない」「現場の参画意識が低い」といった声が聞かれます。
また、人材という点ではAI(人工知能)技術者やデータサイエンティストといったデジタル専門人材の確保・育成に注目が集まりがちですが、企業がDXを着実に前進させていくには、専門人材だけでなく、使い手側であり、顧客に価値を届ける全ての従業員におけるデジタルリテラシーの問題を避けて通ることはできません。
たとえ有効なデジタル技術やサービスが導入されても、使えない人が多ければデジタル化は浸透せず、定着もしないため、コストに見合った効果は期待できないでしょう。DXの先に企業が目指す姿とは、働き方や社内の業務プロセス、ビジネスモデルなど全てが、デジタルを前提として組み立てられている企業となることです。その姿を維持していくための土台としてデジタルに適合した組織カルチャーを手に入れることが求められ、従業員一人ひとりの意識の変容とデジタルリテラシーの向上が不可欠といえます。
デジタルリテラシーとは何か
そもそもリテラシーとは、原義では「読解記述力」を指し、転じて「(何らかの形で表現されたものを)適切に理解・解釈・分析し、改めて記述・表現する」という意味に使われます。事業部門のスタッフを含む一般的な従業員は、ITの専門家ではありませんので、先進的なデジタル技術についての詳細な知識やシステム開発の実務スキルが必要というわけではありません。
従って、全従業員に求められるデジタルリテラシーとは、デジタル化の本質や価値を適切に理解した上で、正しく活用することで、業務や事業に役立てることができる能力を指すはずです。すなわち、デジタル化の必要性・重要性を正しく認識・理解する「理解」を土台とし、データやデジタル技術の価値とリスクを踏まえて業務やビジネスに活用できる「活用」の能力が備わり、さらにデータやデジタル技術を業務やビジネスに適用するための企画・検証などの行動を起こすことができる「実践」の行動とスキルが伴った状態を指すと考えられます(図1)。
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デジタルリテラシーのレベルと体系
これまで述べたデジタルリテラシーの定義および要件を踏まえて、ITRでは、事業部門のスタッフを含む全従業員に求められるデジタルリテラシーを「ビジネス」「テクノロジー」「デザイン」の3つの分野で整理し、3段階のレベルで体系化しています(図2)。
3つの分野は、イノベーションに求められる3つのタイプの人材像と、そこで必要とされる3つの領域のスキルをもとにしています(連載「内山悟志のIT部門はどこに向かうのか」イノベーションに求められる人材像とは)。また、3段階のレベルは、全従業員に求められるデジタルリテラシー(図1)で示した「理解」「活用」「実践」に対応しています。
全ての従業員は、デジタル化の本質や価値を適切に理解し、正しく使いこなすことで、業務や事業に役立てることができなければならず、少なくともレベル2のデジタルリテラシーを身につけることが求められます。また、部門内でDX活動を推進したり、DX関連のプロジェクトに参画したりするメンバーは、企画・検証などの行動を起こすことが求められることから、レベル3の実践スキルを具備することが推奨されます。
ITRでは、この体系をもとに基本的な研修メニューを組み合わせ、企業の要望に合わせて時間数・回数などを調整するなどしてカスタマイズプログラムを作成するデジタルリテラシー研修を提供するほか、ITR Academyでのオンライン研修を実施しています。
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