DXマネジメントオフィス入門

社員のDX理解度を評価・把握し、向上を図る「DX-Education」

塩野拓 (KPMGコンサルティング)

2021-10-04 06:00

デジタル施策の推進に必要なデジタルリテラシー

 前回の記事で解説しましたように、企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進では、まず自社のデジタルへの取り組みがどこまで進んでいるかについて、ベンチマークも含め客観的に評価・分析・把握することが重要です。そこを起点として自社のDX課題を特定し、その課題を解決するためのDX施策の立案とロードマップの策定を行うことが、全社DXのスタート地点となります。

 ただ、ここで一つ懸念が浮上します。立案したDX施策とロードマップを、果たして企業内の既存リソースで予定通り進めることができるのかーーという点です。掲げたDXの目標に向けて、通常なら主たる推進役となり得そうな社員のデジタルリテラシーの成熟度も重要な要素になるのです。そのため、次のアクションとしては、社員のデジタルリテラシーの現在位置の把握がキーポイントとなります。

 振り返ると、これまで日本企業の各部門においては、デジタルへの接点に極めて偏りがありました。従来、IT領域ではDemand(要求)サイドとして事業部門やコーポレート部門が必要な業務機能を情報システム部門へ要望し、一方でSupply(供給)サイドとして、情報システム部門が専任的に業務システム、OS、ネットワークなどの導入・改善・保守・メンテナンスを担当していました。このようにITサプライチェーンとして完全に役割が分断された状況では、デジタルリテラシーの成熟度はどうしても情報システム部門に偏ってしまいます。

 今後、来たるデジタル時代において求められる全社的なDX推進では、情報システム部門のみならず事業部門やコーポレート部門も一定のデジタルリテラシーを具備すべきであり、まさに全社参加的に、社内外のステークホルダーとの共通言語として、デジタルに関わる知見の具備を前提としたコミュニケーションをしていく必要があります。

社員のデジタルリテラシーの現在位置の把握

 前述したように、全社DX推進の起点として、まずは社員のデジタルリテラシーの現在位置を把握していきます。当該領域の可視化は、なるべく網羅的に、客観性を持って現在位置を確認することが重要です。KPMGコンサルティングでは、ビジネスパーソンに求められるデジタル知識や技能、情報、活用能力などの度合いを数値で可視化する「デジタルリテラシー診断」(アンケート調査・分析)を行っており、企業のデジタルリテラシーの現在位置を可視化するのみならず、DX人材の育成を支援しています。

(1)デジタルリテラシー診断(構成)

 下図は設問の一例ですが、「デジタルのトレンド」「デジタルを活用したビジネスへの貢献」「デジタルリスク態勢」「デジタル教育と投資」の4つの知識領域にかかる34 の設問を定義し、アンケート調査とび分析を通じて診断します。各項目についてLevel1~4といった4つの選択肢を設定し、Level2が標準スコアとなるよう設計しており、もしLevel2より低い知識領域があれば、そこを重点的に強化していくようデジタル人材教育の計画立案を支援しています。


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(2)デジタルリテラシー結果の分析、ギャップの特定と方向性の検討

 4つの知識領域にかかる34の設問の回答を回収した後は、「部門」「役職」「勤続年数」「年齢」などのデモグラフィック情報別に分析を進めます。下図は、部門別のデジタルリテラシーの平均点を相対的なヒートマップにしたサンプルです。縦軸をデジタルリテラシー設問、横軸を部門としたマトリックスであり、寒色系が高スコア、暖色系が低スコアを表しています。筆者の経験上、この結果には企業特性に裏付けられたデジタルリテラシーの結果が如実に現れ、それぞれ全く異なる傾向・結果が得られます。下図のサンプルでは、弱み(赤番号)が2つ、強み(青番号)が3つ抽出されています。


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 それぞれの強み・弱みにおける部門別の現況を示唆するだけでなく、そこから「今後どこのポイントを強化すべきか」「どのような工夫をしてレバレッジを最大化するか」を仮説立てていくことで、今後の全社的なデジタルリテラシーの強化、つまり、社員の成長、教育方針のプランニングのインプットを得ることができます。


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