地球温暖化につながるとされる二酸化炭素(CO2)の排出量の増加をいかに抑制するかが世界的な関心事となる中、ITの領域では人工知能(AI)など高負荷のワークロードが拡大して電力消費の増大し、それを賄うための発電時のCO2排出量の増加が問題になり始めている。Lenovoのバイスプレジデントでハイパフォーマンス コンピューティング(HPC)およびAI担当ゼネラルマネージャーを務めるScott Tease氏に、データセンターを中核とする対応などを聞いた。
Lenovo バイスプレジデント HPC・AI担当ゼネラルマネージャーのScott Tease氏
スーパーコンピューターを利用した大規模シミュレーションに代表されるHPCは、データセンターのさまざまなワークロードの中でも、特に電力消費が大きく、システムを冷却するためにも多くの電力を必要とする。「同じ面積なら一般的なオフィスに比べて50倍も多く電力を消費する」とTease氏。地球環境の保護に欠かせないHPCの電力消費の抑制は重要なテーマであり、「Lenovoは2010年からCO2の削減に取り組み、現在までに92%のCO2削減を達成している。2030年までに、さらに50%の削減を目指している」とTease氏は話す。
ITとしてCO2の排出量を効果的に抑制するには、個々のIT機器はもとよりデータセンター全体で使用電力をいかに減らすかが鍵を握る。必要とする電力使用量が少なくなれば、発電量も少なくて済む。Tease氏によれば、2020年における米国の電源構成は、天然ガスが40%、原子力が20%、太陽光などの再生可能エネルギーが20%、石炭火力が19%。発電時に多くのCO2を排出する天然ガスや石炭などの化石燃料への依存度を減らし、再生可能エネルギーの割合を高めることも必要になる。
「Lenovoとして考えているのは、まず発電時のCO2排出を減らし、次に再生可能エネルギーへの移行によってカーボンニュートラルを実現し、最終的に廃熱などを再利用エネルギーとして新たな形で活用すること。顧客にとっても電力コストの削減につながり、利益の向上あるいは環境への投資といった効果をもたらす」(Tease氏)
二酸化炭素の排出量削減からエネルギーの効率利用を向けたロードマップを描く
取り組みとしては、PCやサーバー、ストレージといった機器単位での低消費電力化、高効率化、ラック単位やデータセンター全体をカバーするエネルギー管理ツールなどに加え、空気冷却ではファンの回転数やファン自体の台数削減なども進めてきたが、現在フォーカスするのは水冷技術の活用になる。水冷は、主に大企業や研究機関などのHPCシステムで導入が進んでいるが、昨今はAIなど高負荷のワークロードが一般化しつつあり、HPCのような冷却技術の適用が必要になるというのが、Tease氏の見方だ。
「水冷技術を活用することで、空冷のために確保していたデータセンター内のさまざまなスペースにも余裕が生まれる。各種IT機器を高密度に配備できるようになり、増えるワークロード需要への対応とCO2の排出抑制を両立することも可能になる」(Tease氏)
同社では水冷技術の「Lenovo Neptune」を2012年から本格展開する。機器内に張り巡らせたパイプに約45度の水温を循環させることでプロセッサーやメモリ-、I/Oなど各モジュールが発する熱を吸収して冷却し、冷却後の水温は約50度程度だという。現在まで世界中で約5万ノードが稼働し、直近では韓国の気象庁KMA(Korea Meteorological Administration)が約8000ノードを導入した。やはりHPCシステムでの採用が多いが、ユニークなケースでは、米DreamWorksがコンピューターグラフィックスのアニメーションを制作するシステムに適用しているという。
こうしたCO2の排出削減の取り組みを踏まえ今後は、データセンター廃熱の再利用を含むエネルギーの効率的な利用をどう実現させていくかが焦点になる。Tease氏によれば、コンピューターの冷却で温まった冷却水から熱交換によって熱エネルギーを取り出し、例えば、ビルの空調や温水プールの熱源に活用するようなアイデアが考えられるとのこと。
「これは活用イメージを分かりやすくするためのアイデアだが、実際にドイツのLRZ(ライプニッツスーパーコンピューティングセンター)では、Absorption Chiller(吸収式冷凍機)を採用して、各種システムを非常に効率良く循環冷却させる取り組みを進めている」(Tease氏)
効率的なエネルギーの再利用には冷却技術が鍵になるという
Tease氏の挙げるデータセンター廃熱を再利用エネルギーとして活用するアイデアは、データセンター周辺の施設環境などの条件にも左右されるが、使用電力とCO2排出を抑制する現在の取り組みから一歩進んだ段階と言える。日本では都市型データセンターへの需要も根強くあるが、「日本市場でもさまざまな効果を期待できるだろう。データセンターのさらなる高密度、高集積化をもたらし、スペースの活用とコストメリットを得ることができ、データセンターを冷やす水の使用量も抑制することができる」とTease氏は話している。