VMWorld

マルチクラウドの具体的な姿を示すヴイエムウェア

大河原克行

2021-10-07 06:00

 VMwareは、年次カンファレンス「VMworld 2021」を日本時間10月6~7日に開催している。2020年に続きオンライン開催となったVMworld 2021は、「IMAGINE THAT」をテーマに、マルチクラウドやエッジ、モダンアプリケーション、セキュリティなどに関する数多くの製品、サービスが発表された。会期中には600以上のセッションやラボも行われている。

VMware最高経営責任者のRaghu Raghuram氏
VMware最高経営責任者のRaghu Raghuram氏

 開催初日の基調講演には、2021年6月にCEO(最高経営責任者)に就任したRaghu Raghuram氏が登壇し、「Accelerating Innovation, Strategies for Winning Across Clouds and Apps」と題して講演した。マルチクラウド時代の「クラウドスマート」なアプローチとなる「VMware Cross-Cloud Services」などを発表してみせた。

「VMware Cross-Cloud Services」の全体像
「VMware Cross-Cloud Services」の全体像

 Raghuram氏は、「今後20年間はマルチクラウドが主流になるのは間違いない。マルチクラウドがイノベーションを生み出していくことになる」と述べた。第1段階の「モノクラウド」の時代から、より多様なアプリケーションをクラウド上で実行でき、アプリケーションの要件とニーズに基づいてクラウドを選択できる第2段階の「マルチクラウド」の時代に移行したことを示した。

 「単一のクラウド環境でクラウドネイティブなアプリケーションを構築したことにより、エンタープライズテクノロジーを変革し、スピードとビジネスバリューの水準を高めることができたのが第1段階。それに対してマルチクラウドは第2段階になる。マルチクラウドへの移行はコロナ禍によって加速している。そして、パブリッククラウトからプライベートクラウド、エッジにまで広がり、ビジネスの俊敏性と回復力を次のレベルに引き上げることができている」(Raghuram氏)

 Raghuram氏によれば、一般的な組織では平均464種類のアプリケーションを運用し、75%の企業がパブリッククラウドを2つ以上使用しており、40%の企業が3つ以上のパブリッククラウドを利用している。多くの企業でデータの主権を確保するために、ソブリン(主権)クラウドを採用している現状があるとする。「マルチクラウドへの移行には2つの要因があり、一つはさまざまなクラウドから最適なサービスを採用し、イノベーションを創出できる柔軟な環境が必要であるという点。もう一つの理由は、単一のクラウドプロバイダーへの依存を回避したいという点だ」と述べた。

 その一方で、マルチクラウドの課題にも言及した。エンタープライズアーキテクチャーの分散化、ワークロードの多様化、さまざまなアプリケーションの存在により、サイロ化されたツールやシステムが生まれ、アプリケーションの実行、管理、接続、保護が困難になっている。また、クラウドで開発したコードを本番環境に移行するには手間と時間がかかっており、アプリケーションへの迅速なアクセスが求められているもののセキュリティが妨げになっていることなどがあると指摘した。「マルチクラウドはこれまでの環境に比べて多様であり、常に複雑さを増している。その結果、選択肢や条件において、OR(どちらか)を採用しなければない状況にある」とする。

 例えば開発においては、開発者の自立性と選択を尊重するか、あるいは一貫性のあるコードによるデプロイに向けてDevSecOpsを優先するか、などだ。ITを管理する部門では、エンタープライズアプリケーションを異なるクラウドで運用するための柔軟性を優先するか、環境とコストをコントロールすることを優先するか、従業員がどこからでもアプリケーションにアクセスすることを優先するか、アプリケーションとデータを保護する強固なセキュリティを優先するか――といったように、選択が迫られているという。

IT環境の制約により「二者択一」が突きつけられてきたが、これからはどちらも手に入れる時代になるという
IT環境の制約により「二者択一」が突きつけられてきたが、これからはどちらも手に入れる時代になるという

 Raghuram氏は、「VMwareのアプローチなら、このような厳しい選択を迫られることはない。全ての企業がマルチクラウドにおいて柔軟性とコントロール性の両方を持つべきであり、AND(どらちも)を採用できる。VMwareはこれを独自のテクノロジーで可能にすることができる」と語った。

 VMwareの“第1章”はサーバー仮想化の先駆者として、クラウドの基礎となるテクノロジーを開発し、“第2章”ではデータセンター全体の仮想化を実現した。現在は“第3章”として、マルチクラウドの実現に向けたあらゆる取り組みを進める段階に入ってきているとする。「マルチクラウドからさまざまな制約を取り払い、柔軟性の高いIT資産に変革できる。これこそがVMwareのDNAともいうべき取り組み」と述べる。それを実現するとして、新たにVMware Cross-Cloud Servicesを発表した。

サーバー仮想化からデータセンター全体の仮想化を経て、現在はマルチクラウドの時代に入りつつあるとする
サーバー仮想化からデータセンター全体の仮想化を経て、現在はマルチクラウドの時代に入りつつあるとする

 VMware Cross-Cloud Servicesは、あらゆるクラウドでアプリケーションのビルド、実行、保護を提供する一連のサービスであり、日々利用している信頼性の高いVMwareのソリューションをマルチクラウドへ対応するように機能を拡張したものと位置付ける。「クラウドジャーニーのスピードを加速すること、コストを削減できること、さまざまなクラウドを活用するための高い柔軟性を持つという3つのメリットがある」とRaghuram氏はいう。

 また5つの中核的な機能、「クラウドネイティブアプリを構築、展開するための最先端のプラットフォーム」「エンタープライズアプリを運用、実行するためのクラウドインフラ」「異種混在のクラウド間でアプリのパフォーマンスやコストを監視、管理するクラウド管理機能」「マルチクラウドの運用全体にまたがるセキュリティとネットワーキングによる全てのアプリケーションの接続とよりセキュアな保護」「分散化された業務環境を実現するデジタルワークスペースとエッジネイティブアプリを展開、管理するエッジソリューション」――で構成させると説明。マルチクラウド時代の「クラウドスマート」アプローチを実現するものとRaghuram氏は定義した。

 基調講演では、これらを構成する5つの要素についても説明した。プラットフォームでは、開発者と運用担当者の双方にエンドツーエンドの体験を提供する新機能を「Tanzu Application Platform」のβ版に追加した。「統合ソリューションとして開発者とDevSecOpsの双方による本番環境でのオーケストレーションを支援する」とRaghuram氏。

 クラウドインフラでは「Project Arctic」を新たに発表した。これはvSphereのSaaS版であり、クラウドの効率的な活用を支援するものという。クラウド管理では「Project Ensemble」により、アプリケーションのコストとパフォーマンス、セキュリティ、自動化を新たなレベルで制御する。セキュリティとネットワークの領域では、最新版のサービスメッシュとKubernetesのセキュリティテクノロジーで、アプリケーションの保護を変革するという。さらに、デジタルワークスペースとエッジの領域で「VMware Edge Compute Stack」を発表した。エッジネイティブなアプリケーションをファーエッジ(企業サイド。同社では通信事業者インフラ側を二アーエッジと呼称)で展開、管理できるようになる。

マルチクラウドが当たり前になっていく
マルチクラウドが当たり前になっていく

 「これらのイノベーションは、主要なパブリッククラウドで利用できる。VMware Cross-Cloud Servicesは、モジュラー型で高い柔軟性を持っており、顧客のニーズに合せて任意のクラウドから最適なサービスを採用できる、アプリケーションのモダナイゼーションに取り組む大企業からクラウドネイティブな新興企業まで、あらゆる企業ニーズに応え、大きな価値を提供できる。未来に進むための意思決定を支援するテクノロジーであり、イノベーションを創出するための基盤になると考えている。マルチクラウド時代のビジネスを推進していく上で、必要となる柔軟性や選択肢を提供することは、VMwareの最優先事項である」(Raghuram氏)とした。

 基調講演の最後にRaghuram氏は、新たに発表した製品やサービスにより、顧客がマルチクラウドの価値を最大限に活用してビジネスを加速できるようにすると述べる。「クラウドをスマートに活用することが重要であり、異なるクラウドから最適なサービスを取り入れ、イノベーションを創出し、ベンダーロックインを回避し、開発者が任意のクラウドでアプリケーションをビルドできる自立性を尊重しながらDevSecOpsチームが一貫性を持ってアプリケーションをデプロイできるようにする。分散化する業務環境を整備し、エンタープライズクラスのセキュリティによりビジネスに不可欠なアプリケーションとデータの保護を実現する」と表明した。「全ての組織がマルチクラウドに柔軟性とコントロール性の両方を持つべきである。マルチクラウドの時代によって、未来へと進むために必要な力を持つことができるようVMwareが支援をしていく」と締めくくった。

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