山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

中国ネット企業の顧客囲い込みに変化--政府が外部サービスへのリンク要求

山谷剛史

2021-10-12 09:32

 中国政府の情報産業省に当たる工信部(工業和信息化部)は9月18日、「中国の各インターネットサービスは、競合企業であろうと他社の外部サービスへのリンクを用意しなくてはならない」と発表した。阿里巴巴(アリババ)、字節跳動(バイトダンス)、騰訊(テンセント)がこれに応じた。

 工信部はこれまで、上記3社のほかに、百度(バイドゥ)、華為技術(ファーウェイ)、小米科技(シャオミ)、網易(ネットイース)などに対して指導するなど、以前から何度もアクションを起こし、そのたびに中国のネット企業は合意するも実施を渋ってきたが、これが事実上の最後通告になった。工信部は「お互いのサービスがつながることはインターネット業界の発展に必然の選択」だと各社に要求した。

 その結果、テンセントのSNS「微信(中国向けWeChat)」や「QQ」から、アリババのEC(電子商取引サイト)や「抖音(中国向けTikTok)」などの各種サービスにリンクされるようになった。リンクをタップすると「外部にジャンプする。微信は内容やセキュリティの安全性について責任をもたない」というメッセージが表示され、さらに「リンク先に進む」を選択すると、外部サイトに移動することができる。また、バイトダンスの抖音でも、アリババのECサイトなどへのリンクが表示されるようになった。

 アリババのECサービス「天猫(Tmall)」「淘宝(Taobao)」、越境ECサービス「考拉海購(Kaola)」、中古ECサービス「閑魚(Xianyu)」、デリバリーサービス「餓了麼(Ele.me)」、動画サービス「優酷(Youku)」などの支払いに「微信支付(WeChatpay)」が利用できるようになった。

 こうした動きの背景には、中国のインターネット企業による顧客の囲い込みがある。他サイトにユーザーが流出するのを露骨に嫌がっている。例えば、アリババはECサイト、テンセントはゲームとSNS、バイトダンスはショートムービーが事業の中心だから競合しないというわけではない。キャッシュレスではアリババ系金融会社である螞蟻集団の「支付宝(Alipay)」とテンセントの「微信支付(WeChat Pay)」が競合するし、動画サイトでは優酷と「騰訊視頻(Tencent Video)」で競合する。テンセントやバイトダンスも自社サービスのユーザー向けにECサービスを展開して自社経済圏を構築したいので、アリババのECサイトは邪魔な存在だ。

 振り返ると、ネット企業同士が他社の他社へのリンクやサービスを使わせないことで、しばしばいがみ合っていた。

 2013年7月には、アリババが微信からのリンクを遮断した。これは偽物サイトに飛ぶのを防ぐためのもので、消費者のプライバシーやセキュリティを考慮したものだった。

 テンセントは2018年5月、抖音をはじめとした動画サービスへのコンテンツリンクを禁止するルール「微信外部鏈接内容管理規範」を発表した。このルールは表向きには個人情報やプライバシーの安全を目的としたものだが、実のところ台頭する動画サイトへの流出を防ぐものだった。バイトダンスはテンセントを提訴し、市場の地位を悪用しているとして、WeChatやQQにおける抖音へのコンテンツ規制を止めて、経済損失費用として9000万元を支払うよう求めた。

 そのバイトダンスも2020年10月、国内最大級のEC商戦日「双十一(11月11日の独身の日)」に向けて自社経済圏を構築すべく、抖音などから淘宝や「京東(JD.com)」といったECサイトへのリンクを遮断する対策を講じている。

 これらはあくまで一例であり、これまで数多くのいがみ合いがあり、そのたびに中国ITメディアの誌面を賑わわせた。

 今回の件により、アリババのサービスで微信支付の支払いが可能になり、支付宝の強みや魅力が減り、ひいてはシェアが減るかもしれない。一方でEC経済圏を構築しようとしたテンセントやバイトダンスだが、微信や抖音でアリババサービスへの商品リンクが可能になってしまったので、EC経済圏の構築は夢のままになってしまうだろう。どちらかといえばECに強いアリババが得する結果になりそうだ。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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