DXマネジメントオフィス入門

DX専門組織が支援・加速させるデジタル戦略の立案手法

皆川隆 (KPMGコンサルティング)

2021-11-01 06:00

 前回までデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の大きな枠組みに資する事項を紹介してきました。今回は、さらに具体的に踏み込んだ「デジタル戦略の立案手法(DX戦略モデル)」について紹介します。

DX・デジタル施策・デジタル戦略の関係

 デジタル戦略立案の話に入る前に、DX、デジタル施策、デジタル戦略の関係について整理します。まずDXについて、2018年に経済産業省が公表した定義には、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とあります。つまりDXとは、データやデジタル技術活用の結果、状態を示すものです。

 次にデジタル施策は、データやデジタル技術を活用した個々の営みを示します。つまりデジタル施策は、単なるデジタル化なのです。デジタル施策の積み重ねが偶然に、DXという結果・状態に至るかもしれませんが、多くの場合、単なるデジタル施策の積み重ねではDXに至りません。

 より意図的かつ効率的にDXに至るために必要となるのが、デジタル戦略です。言い換えれば、各デジタル施策をDXの方向へ至らせる(DXに位置づける)、つまりはDXという結果・状態にたどり着くために必要となる、各デジタル施策を中心とした営みを体系的に立案することがデジタル戦略の本質であり、デジタル施策の上位概念とも言えます。戦略なき戦術(デジタル戦略なきデジタル施策)は、DXという広大な世界を、地図もなく運に任せて歩いている状況なのです。

自社にとってのデジタルの定義

 「自社にとってのDXの定義とは?」という問いを、多くの企業や経営者が語ることができるようになってきたと筆者は考えます。では、よりDXの実行性を意識した、具体性のある「自社とってのデジタルの定義とは?」の問いはどうでしょうか。

 この問いは重要でありながら、DXを推進している、もしくは推進予定の多くの企業であいまいになっています。広義のデジタル(=アナログの対義語)の観点で捉えれば、メールも基幹システムも、多くの方がいわゆる「IT」と認識しているものの多くがデジタルに包含されます。「メールはデジタルなのか?」と違和感を覚える方がいるように、デジタルの定義は人それぞれ理解が異なり、企業内で共通認識の形成が図られていないことが多いのです。「デジタルの定義」があいまいなために、以下のようなDX推進上の問題が多く見受けられます。

  • 企業内でのデジタルに対する共通認識(特にデジタルとITの違い)が形成されず、デジタル推進に係る意思決定が遅延(意思決定の段階でも、「デジタルとは何か?」の議論が繰り返され、意思決定・合意形成に至らない)
  • デジタルの定義があいまいなため、デジタル施策の立案が困難(既存ITの延長線上の施策か、新たなデジタル施策かの境界が不明確で、デジタル施策としての発案がしにくい)
  • 「デジタル推進組織」と「IT部門」の間で、役割重複、役割の空白地帯、押し付け合い、奪い合いが発生(デジタル推進組織とIT部門を分離している場合)
  • デジタル施策、IT施策の予算の境目が不明確になり、近視眼的に必要性が明確なIT施策(既存の企業活動を守る)にほとんどの予算が割かれてしまい、デジタル施策への予算計上が困難となり、DX進捗が鈍化(デジタル予算とIT予算を分離している場合)

 特に、「デジタル」と「IT」を分離してDXを推進されている企業では、上記のような問題がよく見受けられます。この問題を回避するためには、DXのビジョン、企業の組織風土、求めるDXのスピードを踏まえてDXを推進することが重要です。以下に「テクノロジー構成要素」や「投資目的」でデジタルとITを区分したサンプルイメージ(図1)を示します。これは一例であり、より重要なことは、企業の全てのステークホルダーが最も腹落ちする「デジタルの定義」を策定し、共通認識の形成を図ることにあります。

 また、デジタルを経営上にどう位置付けるかによっても、自社にとってのデジタルの定義は大きく変わってきます。「デジタルの定義」に一律の答えはなく、各企業がデジタル戦略立案前に、「デジタルを経営上にどう位置付けるか」、そして「自社にとってのデジタル」を定義し、共通認識を形成することが、DXを強力かつ迅速に推進する一翼を担います。

図1.サンプルイメージ:デジタルの定義
図1.サンプルイメージ:デジタルの定義

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