愛知県がんセンターと富士通は、がん患者のがん種や多様な遺伝子変異に基づき、さまざまな治療薬から効果が期待される薬剤を人工知能(AI)で効率良く絞り込むことができるシステムを開発した。
実証実験では、愛知県がんセンターのエキスパートパネル(治療方針を決定する専門家会議)で治療法などを検討されてきた約450人の患者について、同システムを用いて治療に効果的な薬剤の評価を実施した。その結果、8種の遺伝子変異に対して、標準的な治療薬を提示できることを確認した。
さらに、さまざまな治療薬の中で、薬効の度合いを示す客観的なスコアや類縁のがん細胞の性質などからその治療効果が期待できる薬剤候補を導き出せることも確認できた。同システムで得られる結果により、医師は当該患者の遺伝子変異に基づいて、治療効果が期待できる薬剤とその薬効の程度について、さまざまなエビデンスを集約して検討することが可能になる。これにより、高度なゲノム医療の知識を持つ専門医でなくても治療薬の選択や新たな治療法の提案ができる環境が広く普及することが期待できる。
システム概要(出典:富士通)
例えば、このシステムに患者のがん種や遺伝子変異などの検査データを入力すると、治療効果が期待できる薬剤や薬効の度合いを示す客観的なスコアが出力され、がん種や遺伝子変異など条件を自由に変更しながら絞り込むこともできる。このため、患者に合った治療法を医師が定量的に効率良く判断することができる。
同システムは、外部の複数データベース内でさまざまな表現やルールによって管理されたがん種および遺伝子変異に対応した薬剤情報、治療効果を評価する実験データなどを共通の表現やデータ形式に整理し、ナレッジグラフに一元化している。ナレッジグラフは、論文や研究成果などテキストで表現される情報を集め、互いに関連する情報同士を接続したグラフ構造データのこと。
愛知県がんセンターの治療薬の選定に関するノウハウと、富士通が開発したデータ統合AI技術により、整理されたデータは属性に基づきデータ同士にリンクを自動付与されている。これにより、さまざまな治療薬の中から患者ごとに異なるがん種や多様な遺伝子変異に対して効果が期待できる薬剤の絞り込みが可能となる。
今後、新たに富士通の「文献情報抽出AI技術」を組み合わせることで、医師が治療薬として検討中の薬剤の効果について、過去の120万件を超える大量の医学文献から該当部分を瞬時に参照することができるようになる。
愛知県がんセンターは、引き続き富士通と同システムにおける複数のデータベースからのデータ統合や出力の改良と検証を進め、がんゲノム医療の臨床現場への本格導入に向けて、簡便に利用できるシステムに発展させていく。