内山悟志「デジタルジャーニーの歩き方」

真のデータドリブン経営とは--データドリブン経営を実現するための8つの条件

内山悟志 (ITRエグゼクティブ・アナリスト)

2021-11-17 07:00

 デジタル変革(DX)への重要な取り組みの1つとしてデータドリブン経営の重要性が叫ばれていますが、従来のデータ活用とデータドリブン経営の違いが明確に示されることは多くありません。また、「データからイノベーションは生まれない」といったデータドリブンへの批判的意見も聞かれます。今回は、デジタル時代に求められる真のデータドリブン経営とは何かを探ります。

DXにおけるデータ活用の重要性

 この連載でも、デジタル時代に適合した組織カルチャーへの変革の必要性を何度か取り上げてきましたが、2021年1月掲載の記事「デジタルを前提とした企業変革に求められる組織カルチャーの6つの要件」では、6つの要件の1つとして「ファクトに基づく意思決定」を挙げています。

 そこでは、意思決定の在り方は、組織カルチャーを左右する重要な要素の1つであり、日々技術が進化し、ビジネスの状況が目まぐるしく変わる時代において、迅速かつ的確な意思決定を行うためには客観的なデータを活用することが求められると述べています。

 SNSの普及、電子商取引(EC)やキャッシュレス決済の浸透、モバイルやセンサー機器の低廉化、モノのインターネット(IoT)の進展などによって、人の行動やモノの稼働状況などがデジタルデータとして幅広く捕捉できるようになったことから、そうしたデータを業務やビジネスにおけるさまざまな意思決定に活用することは自然の流れであり、有効な打ち手といえます。

 また、デジタルが浸透する社会では、多様化した人材とオープンでフラットな組織が優位性を発揮します。仮説を素早く検証するアジャイルな意思決定と、ビジネスの最前線となる現場での自律的な行動が求められ、データドリブンであることは、その重要な要件となることは言うまでもありません。

 AmazonやGoogleなどのデジタルネイティブ企業は、生まれながらにしてデータドリブン経営を実践しています。もはや巨大企業となった現在も、ビジョンと目標を全社で共有した上で、客観的でリアルタイムなデータに基づいて現場が自律的に行動しているのです。

データドリブン経営は多くの企業において積年の課題

 データウェアハウスや統合基幹業務システム(ERP)が注目された1990年代から、経営の可視化やダッシュボード経営などが指向され、経営や事業運営におけるデータ活用が重要とされてきました。しかし、この時代のデータ活用は、基本的にERPなどの基幹系システムや各種業務システムからデータを抽出し、それらを帳票ツールやデータ分析ツールなどを介して意思決定に役立てようとするものでした。そこで収集されるデータは、主に社内のオペレーションの結果の記録や過去の業績データであり、構造化された定量データに限定されていました。

 また、それを活用する人材や組織も、旧来型の階層組織を前提とした意思決定メカニズムを反映したものであったといえます。2008年にThomas H. Davenportが『分析力を武器とする企業』(日経BP社)を著し、データ活用や分析の重要性を訴えましたが、当時は、それを具現化する手段や環境が十分に整っていませんでした。

 技術的にも、既存の社内システムからETL(抽出・変換・格納)ツールなどを使って抽出したデータをデータウェアハウスに蓄積し、それを帳票やビジネスインテリジェンス(BI)ツールで参照するという従来型のデータ活用しかできなかったため、多くの企業でデータドリブン経営は積年の課題であったといえます。

 一方、多様化した人材とオープンでフラットな組織が優位性を発揮するデジタルの時代には、過去の実績や社内の構造化データに頼った旧来型の意思決定メカニズムは通用しなくなっており、目まぐるしく変化する外部環境の状況や先行的指標を含む多様なデータによるアジャイルな意思決定と、チームや個人の自律的な行動が求められているのです。

イノベーションとデータドリブンの関係

 「データからイノベーションは生まれない」といったデータドリブンへの批判的な意見も聞かれます。新製品の開発や新サービスの検討に際しては、判断材料として一般的にマーケティングリサーチのデータがよく用いられます。市場規模などを分析し、既存の製品・サービスとどう差別化を図るのか、潜在顧客はどれぐらいいるのかなどを検討します。

 こうしたリサーチで重視されるのは、データに基づく論理的な仮説、すなわちロジカルシンキングです。これは、定量的なデータに基づき論理的に仮説を積み上げていくことで、説得力のある提案ができる、という考えに基づくものでした。しかし近年、こうしたロジカルシンキングが通用しないケースが散見されるようになっています。IT業界のアナリストとして30年以上にわたって市場調査や予測分析を基に、中立・客観的な立場から企業に対してアドバイスを提供してきた筆者が自ら感じていることです。

 それは、不確定要素が非常に多く、網羅的で正確なデータの収集が困難であることに加えて、社会の変化速度が非常に速いため、たとえデータがそろっても手遅れになりやすいことに起因しています。ロジカルシンキングは「データに基づいて論理的に仮説を積み上げれば、誰でも同じ結論を導き出せる」ことを前提とする思考法であり、判断の精度や他者への説得性が高まるといわれていますが、得られるデータが過去のものであったり、範囲が限られていたりする場合、正しい結論が導き出される保証はありません。

 また、製品・サービスの改善ではなく、新規の価値や斬新なアイデアを創出するには、問題解決ではなく問題発見が必要であり、既知の情報や過去のデータを積み上げても、適切な仮説を導き出すことは困難といえます。従って、「データからイノベーションは生まれない」という指摘は的を射ている点もあり、従来のデータ活用から不連続型のイノベーションを創出することは難しいと言わざるを得ません。

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