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「量子コンピューター」バブルへの懸念--誇大宣伝や過度の期待が抱えるリスク

Daphne Leprince-Ringuet (ZDNet.com) 翻訳校正: 川村インターナショナル

2021-11-19 07:30

投資家やCIOが量子コンピューティングに抱く強い関心は、この分野で働く多くの科学者にとって諸刃の剣だ。
提供:Honeywell Quantum Solutions
投資家やCIOが量子コンピューティングに抱く強い関心は、この分野で働く多くの科学者にとって諸刃の剣だ。
提供:Honeywell Quantum Solutions

 量子コンピューターがビジネスを変革し、前例のない演算能力の新時代を切り開くという考えが、先進性や革新性を示すものとして、経営幹部に売り込まれることが増えている。この技術は、競争で優位に立つために必須の新たな要素として宣伝されることが多い。

 しかし、この分野で働く多くの科学者にとって、投資家や最高情報責任者(CIO)が量子コンピューティングに寄せている強い関心は、諸刃の剣だ。量子コンピューターはいずれ研究段階を終えてビジネスで活用する必要があるが、この技術の商用化はまだ早すぎる可能性があり、量子コンピューティングが仮想現実やブロックチェーン、NFTとともに、恐ろしい「誇大宣伝」カテゴリーに追いやられるリスクがある、と科学者らは警告する。

 量子コンピューティングがつまらないものというわけではない。科学的な観点から言えば非常に刺激的であり、だからこそこの分野では何十年も研究が続いている。

 1990年代初頭の時点で、科学者たちはすでに、量子力学を使用して次世代コンピューターを開発するというアイデアに盛り上がっていた。粒子が最小の状態、すなわち量子になると、古典物理学の法則とは大きく異なる振る舞いをすることが観察されていたからだ。

 たとえば、量子粒子は同時に多種多様な状態で存在することができる。これはある種の二重現実のようなものだ。当時の科学者たちは、その特徴をコンピューティングの分野で活用できるのではないかと想像した。量子粒子は異なるデータを並行して運ぶことができ、古典コンピューターのビットのように1か0のどちらかに制限されることはない、と考えられた。こうして生まれたのが、量子ビット(キュービット)という概念だ。

 キュービットを搭載したコンピューターは、理論的には、極めて複雑な問題を瞬時に解決することができる。というのも、さまざまな計算を複数の並行「現実」で同時に実行できるからだ。

 「原理上は、古典コンピューターには困難な問題を量子コンピューターが解決できるということを、われわれはコミュニティーとして1990年代初頭から把握していた」。シカゴ大学コンピューターサイエンス学部助教授のBill Fefferman氏はこのように語る。「それは理論的な結果であり、実験を伴うものではなかった。われわれはただ、もし完璧な量子コンピューターが構築されたら、原理的にはこうしたことが可能になる、と話していただけだ」

 現在に話を戻すと、今は小規模な量子コンピューターの初期のプロトタイプが登場している段階だ。これらのシステムは少数のキュービットを制御できるが、通常は100個に満たない。たとえば、IBMはこの分野に投資している最も著名な企業の1社だが、そのIBMによって開発された最も強力な量子マシンが搭載するキュービットは、現在65個だ。

 キュービットがこれだけ少ないと、量子コンピューターで実際にできることはほとんどない。エンジニアが1990年代に夢見ていた完璧な量子システムを構築するには、最大100万キュービット、場合によってはそれ以上のキュービットが必要だと研究者は推定している。それでも、科学者は現在の小規模なマシンで実験し、この技術がさらに進歩したらどうなるのか、仮説を立てることはできる。これまでのところ、期待できる実験結果が得られているようだ。

 たとえば、化学技術者は、量子コンピューターによって大規模かつ複雑な分子のシミュレーションが可能になり、病気に最も有効な組み合わせを予測して、救命治療薬をより短期間で開発できるようになると見込んでいる。大手銀行は、量子システムを利用すれば、急速に変化する非常に多くの要因を考慮した計算を基に、売買で最大限の利益を得られる銘柄を特定できると期待を寄せる。自動車メーカーは、電池の設計、サプライチェーンの最適化、密集した都市環境での交通管理に、この技術がどのような変革を起こすのかをテストしているところだ。

 こうした初期の実験は、石油/ガス、物流、サイバーセキュリティ、農業、さらには天気予報など、さまざまな分野で非常に大きな関心を呼んでいる。量子技術が成熟すれば、あらゆる業界が変わることになる、と主張する専門家もいる。

 「この技術には、従来の方法では解決できない非常に興味深い問題を解決できる可能性があることが、初期の実験によって示されている」とFefferman氏は述べた。

 投資家がそれに気づくのに長い時間はかからなかった。量子コンピューティング業界は繁栄の時を迎えている。主な牽引役は、資金が潤沢なテクノロジー大手、IBMとGoogleだ。両社は早い時期にこの技術への関心を示した大企業だった。現在では、AmazonとMicrosoftも参入しており、いずれも独自の量子プログラムを立ち上げている。また、多数の小規模企業が2021年だけで合計10億2000万ドルを投資した。

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