新しい「水」としてのデータ

アクティブインテリジェンスによる製造プロセスの再考と最適化

今井浩 (クリックテック・ジャパン)

2021-11-26 07:00

 NewVantage Partnersが2021年に実施した調査によると、ビッグデータと人工知能(AI)の取り組みにより成功を収めたという企業の割合は、この5年で48.4%から、ほぼ2倍の96%にまで伸びています。データ活用を拡大している企業の数も増えており、同調査の対象となったあらゆるセクターの企業の99%がデータ関連の取り組みに投資していることが明らかになりました。また、Statistaの最新の調査を見ると、2011~2021年までの10年間で、ビッグデータへの投資額が10倍増えたことが分かります。2026年には、投資額が1000億ドルに達すると見られています。

 IDC Japanの調査によると、2020年の国内ビッグデータアナリティクス(BDA)ソフトウェア市場は前年比6.8%増で、3337億7200万円の市場規模になったとしています。特に、データレイクを構成するためのデータベースソフトウェア、インテグレーションソフトウェアなどが市場の成長を支えたと見ています。同市場においても、新型コロナウイルス感染症の拡大によって一時的な企業の投資抑制があったため、2020年はやや成長率が鈍化しました。しかし一方で、消費者およびビジネス市場でのデジタルシフトは顕著で、企業におけるデータ活用需要が拡大した結果、2021年以降は2桁成長になると予測しています。

 これらの調査から見ても、あらゆるセクターの企業が、データの最適利用により大きな価値がもたらされると認識していることは明らかです。しかし、これを実現するには、適切な技術的枠組みをうまく利用する必要があります。製造業を例に、その仕組みを詳しく見ていくことにしましょう。

責任ある生産を目指す

 気候変動の危機に直面する中、企業にとって選択の余地のない優先事項として、天然資源の保護が挙げられます。専門家によれば、必要な対策を大規模に実施しない限り、20年以内に取り返しのつかない状態に陥ってしまうといいます。

 こうした状況を背景に、世界中の製造業者が、持続可能な慣行を取り入れることで、責任ある生産に向けて動き出そうとしています。企業は現在、資源保護と省エネにフォーカスしつつ、環境に配慮した代替エネルギーの生成方法を探っているところです。例えば、大手家庭用繊維ブランドのWelspun Indiaでは、淡水の使用量を減らすようにプロセスを変更して水の熱回収を促進させ省エネにつなげているほか、厳格な有害化学物質排出ゼロ(ZDHC:Zero Discharge of Hazardous Chemicals)ガイドラインを実践しています。

 ここで鍵となるのがアクティブインテリジェンスです。つまり、リアルタイムの情報を通して、その瞬間に状況を認識して、即座に行動を起こそうというわけです。このような技術的枠組みを利用することで、製造業者は持続可能な取り組みの効率を最大限に高めることが可能です。IoT主導の広範な枠組みから得られる最新のリアルタイム情報を分析することで、資源の使用率や枯渇の速度を正確に計算するといったことに、アクティブインテリジェンスを役立てられます。

 さらには、パンデミック後の不安定な市場環境において変化しやすい納入目標を達成する上で必要な原材料の量を、前もって把握するのにも活用できます。アクティブインテリジェンスによって可能になるシームレスなワークフローにより、製造業者、配給業者、小売業者の間のやりとりやデータの流れが改善することで、より正確で効果的な意思決定と需要予測が実現します。

 生み出されたインサイトは、第1次産業から原料を調達する際の無駄を最小限に抑えるのにも役立ちます。加えて、これらのインサイトによって製造業者は、中間処理を強化し、再生不能資源の利用を最適化できるようになります。アクティブインテリジェンスを取り入れることで可能になるきめ細かな分析を、ゴミのリサイクルを通して異なる収益源を生み出すための革新的な戦略の策定に役立てることで、全体的な収益の向上につながります。

製品エンジニアリングを補強するスマートな自動化

 従来の設計手順には、何段階にも及ぶ検査や故障試験が伴います。これらは手動による継続が難しいだけでなく、人的エラーを招く可能性があります。大手製造業者では、自動化とアナリティクスを活用することで、製品エンジニアリングの生成設計の効率を最適化しつつ、このような課題を克服しています。

 この設計プロセスでは大量のデータが使用され、量が増えれば増えるだけ、アルゴリズムの効率が高まります。アクティブインテリジェンスによって、企業はAIと機械学習(ML)を通して動的なコンテンツとロジックを利用して、イノベーションを促進しつつ、コストと時間を最小限に抑え、生産プロセスのエラーをなくすことが可能です。

 例えば、三脚椅子の設計を行う企業の場合、詳細な設計図を生成設計ソフトウェアに読み込ませるとします。アクティブインテリジェンスを利用したAI/MLアルゴリズムは、エンジニアが入力した人間工学的制約に沿った、考えられるあらゆる構成を提案し、一連の最適なソリューションを生成します。試験段階を経て、最終的に最適なソリューションが完成します。

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