「組織が強くなるには横のつながり。客先には設計と営業だけではなく、構造設計など技術部門も同行するが、営業メンバーを脇に置いて技術の話で盛り上がる。技術話を聞きたい方は少なくないため、意外な横のつながりを見つけていきたい」――。
竹中工務店 常務 執行役員 高橋裕幸氏
竹中工務店 常務 執行役員 高橋裕幸氏は、こう語り、デジタルトランスフォーメーション(DX)を実践する上で見落としがちな人脈の価値を強調した。同氏は、Sansanが開催したオンラインイベント「Sansan Innovation Summit 2021」に登壇。「竹中工務店の総務担当役員が考える『使えるDX』のヒントとは」と題して講演した。
縦割り文化で「各部門の持つ人脈が発展しにくい」
1610年創業の竹中工務店の現在の連結売上高は1兆2377億円、単体従業員数は7741人。そんな同社はさかのぼること6年前から、とある名刺管理サービスを導入したものの数年かけても浸透せず、2021年1月に「Sansan」へ切り替えた。「半年も経たないうちに変化を感じる」(高橋氏)。営業部門のみならず役員会や本部長クラスでも利便性を感じたという。
それまでの同社は一般的な縦割り文化があり、「各部門の持つ人脈が発展しにくい状況」(高橋氏)だった。個々が管理する名刺データは手動で入力していたためミスが多かったものの、「99.9%正確なデータが手に入るのは非常に大きかった」(高橋氏)とSansanの効果を語る。
ここから社内と社外の人脈の可視化が始まり、「自然と情報共有し合うという考えにつながった。(社内の)雰囲気も変わった。水面に雫がポトッと落ちて広がる感じだった」(高橋氏)という。その効果の一例として、以下のように語った。
「とある支店の従業員が、プロジェクトの重要なキーマンにアプローチをしたいものの接点がない。だが、Sansanで検索したところ、弊社役員が名刺を持っていた。聞いてみると大学の後輩だったという。そこから紹介してもらい、スムーズにアポイントメントを取ってキーマンとの接点を得ることができた」
Sansanを活用するのは営業部門が中心だが、同社では役員レベルも活用している。
「弊社は建設業のため、設計事務所などにアプローチすることが多い。ところが、彼ら彼女らは大学でつながっているので、出身校を知りたいという話が役員も参加する会議で話題に上った。すると設計部門の専務が『設計事務所の役員に関する出身校情報は、自分の知る範囲ですべて入力してある。必要があれば自分に言ってくれ』と。これで一気にSansanの重要性が増した」(高橋氏)
竹中工務店によるSansanの導入は取締役社長 佐々木正人氏の要望が大きかったという。「佐々木は『以前から人のつながりを可視化したい』と考えていた。各部門長に働きかけていたが、数年間実現しなかった」(高橋氏)
社長室からの意見を踏まえて、高橋氏は佐々木氏にSansanの概要を説明したところ強い関心を持ち、Sansanの担当者も竹中工務店の質問に対して、「『それは可能』『カスタマイズで対応可能』『まだできない』とはっきり言ってくれた」(高橋氏)ことで信用度が高まり、導入に至った。
同社はSansanを評価しているが、必ずしもスムーズな導入ではなかったという。営業系役員が導入に強い反対の意思を表明していた。その理由は、自社構築していた顧客ポータルサイトの存在。機能的に衝突するSansanは不要という判断だった。
高橋氏は、営業系役員が信頼を置く若手執行役員などを通じてSansanの利便性を伝え、最終的には反対の意を取り下げた。現在、反対した営業系役員のログイン率は極めて高いという。
システムの移行は困難が付きものだ。竹中工務店がそれまで使っていた名刺管理の画像データは50万枚にもおよび、1年ぐらいはかかると見込んでいたが、Sansanの協力を得て2カ月未満で完了。2021年4月には50万枚の名刺データにアクセス可能な状態を作り上げた。
竹中工務店は今後、Sansanの利用範囲を拡大させるとともに技術部門などへの展開も標ぼうした。
「営業部門が中心となってSansanを推進しているが、総務部門も(思考を変えて)盛り上げてほしい。われわれのSansan導入は後発組に類するが、データ活用方法で足腰が強くなった。若手社員も使い方を工夫し、柔軟な発想に基づいたSansanの使い方が生まれることを期待している」(高橋氏)