量子コンピューターが直面する困難--キュービット増加に伴う技術的課題

Daphne Leprince-Ringuet (ZDNET.com) 翻訳校正: 編集部

2021-12-03 07:30

 Googleは約2年前、いわゆる量子超越性を達成した。それは「Hello world」のような瞬間だったと、同社の最高経営責任者(CEO)であるSundar Pichai氏が語っている。量子超越性の達成はこの分野で大きな話題となり、以前は比較的目立たないエンジニアリングの1分野だった量子コンピューティングが、メインストリームに少し近づいた出来事だった。

 古典デバイスでは現実的な時間内に実行不可能だった計算タスクを、量子コンピューターによって解決できることが、初めて示された。Googleの量子プロセッサー「Sycamore」は、世界最大のスーパーコンピューターが完了に1万年を要する問題の答えをわずか200秒で計算した。

 それ以来、量子コンピューティングのエコシステムは繁栄を続けている。テクノロジー大手も小さなスタートアップもこの流れに乗った。背景には、量子技術がいつの日か前例のない計算能力を実現して、創薬から財務モデリングまで幅広い問題を解決し、効率や業績の面で大きな改善を生むという期待がある。

 それは歴史的な節目だったが、量子超越性の実証によって、量子コンピューターがやがてこの「コンピューティングの新時代」を切り開くことが保証されるわけではなく、大規模で有用な量子システムの開発が可能であることが保証されるわけでもない。

 Googleのチームを量子超越性へと導いた科学者の言葉なのだから間違いない。「量子超越性が最終的なゴールだったわけではない」。2019年に「Nature」誌の論文でGoogleの量子AIチームとともに量子超越性について紹介したJohn Martinis氏は、米ZDNetにこう語っている。「まだまだ先に進むことができる」

 Martinis氏は、Googleと同社のシリコンバレーキャンパスをすでに離れており、現在はオーストラリアに移って、Silicon Quantum Computingというスタートアップでシステムエンジニアとしてコンサルティングを行っている。そのため、量子コンピューティングの最先端技術を進歩させるという思いが消えたことは一度もない。「Googleを去ってから、まだ修正が必要なさまざまなことについて、ずっと考えてきた」と同氏は語る。

 Googleにおける同氏の実験の重要性を軽視しているわけではない。Martinis氏が2014年にGoogleの量子AI部門に加わったとき、量子超越性を達成するという計画は大きな課題であるように思われた。多くの人が達成は到底不可能だと考えていた、と同氏は振り返る。

 1980年代から量子コンピューティングの研究に携わっているMartinis氏から見て、このプロジェクトはハイリスクハイリターンであり、チームにとって大きな挑戦だったが、それでも実行可能と思えるものだった。それから数年後、同氏の考えが正しかったことが証明された。Googleの53キュービットの量子プロセッサーが、最も強力なスーパーコンピューターで実行不可能な計算を実行し、量子超越性が初めて宣言された。

 ただし、重要な注意点がある。Sycamoreプロセッサーが1つの計算で量子超越性を達成したからといって、Googleの量子コンピューターがすべての問題で従来型デバイスに対抗できるわけではない。むしろ全く逆だ。Googleのチームが設計したタスクは、量子システムによる解決だけを目的としており、量子超越性を実証すること以外に実用性がないものだった。

 Pichai氏が量子超越性の達成を発表したブログ投稿で説明しているように、この実験は、地球の重力を離れて宇宙の端に触れることができる最初のロケットを作ることに似ている。すなわち、宇宙旅行の可能性を示すものではあるが、有益な場所に行くことはまだできない。

 これは、月への旅行が近いうちに可能になるという宣言とはかけ離れている。同様に、量子超越性を達成したからといって、大規模な量子コンピューターが将来的に実現して、従来のコンピューターには対応できない科学やビジネスの問題を解決できるようなるわけではない。

 「量子コンピューターの構築が可能になるのかどうか、私にはよく分からない」とMartinis氏。「競争の相手は自然だ。本当の問題は、量子コンピューターの構築を自然が許してくれるだろうか、ということになる」

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