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2030年のデジタル社会は怖い世界? 未来を予見する意義

國谷武史 (編集部)

2021-12-22 06:00

 テクノロジーの進化と普及により便利な明るい社会が期待される。しかし、そこには怖さもあるだろう。トレンドマイクロは、11月から2030年のデジタル社会とサイバーセキュリティを題材にした9本のウェブドラマ「A Glimpse into the Future: Trend Micro's Project 2030」を公開。同社に制作・公開の狙いや物語の構成要素などを聞いた。

 ドラマは、高度にデジタル化が進んだ架空国家「ニュー・サン・ジョバン」の2030年が舞台。キーパーソンへのインタビュー配信で生活をしていた新鋭ジャーナリストのジュリア・サンチェスは、陰謀論やプライバシー保護の問題ばかりに対応する日々をすごしていた。市民は、ウェアラブルデバイスでデジタル空間の家族や友人と会話したり、自宅の4次元(4D)プリンターで「食品を印刷」して食事を楽しんだりといった暮らしぶりだ。一方でデジタルにより高機能化・統合化を求める人々とプライバシー保護を訴える人々の対立が起きている。そうした中、新型の医療用4Dインプラントの発表を控えるKoRLoのカリスマCEO(最高経営責任者)の元に最悪の知らせが届く――。全9話の構成で、12月27日までに各話が順次公開され、無償で視聴できる。

ドラマで描かれている2030年のデジタル日常のシーン
ドラマで描かれている2030年のデジタル日常のシーン

 作品は、元Facebook 欧州・中東・アフリカ地域Trust & Safety担当マネージャーでボーンマス大学客員教授を務めるVictoria Baines博士と、トレンドマイクロ セキュリティリサーチバイスプレジデントのRik Ferguson氏が共著し、2021年5月に公開した報告書が原典となっている。報告書では現実のサイバー攻撃やサイバー犯罪事例の分析、情報セキュリティやデータ保護、法執行、国際関係などの専門家のヒアリングから、新興技術とそれらが将来に与える影響などを広範に考察している。

 日本でセキュリティエバンジェリストを務める石原陽平氏は、ドラマを制作・公開した狙いについて、「企業や組織でのシナリオプランニングに活用していただきたい」と話す。

 1990年代以降のITの急速な進化と普及が世界を大きく変え、2019年の終わり頃までは日常生活において誰もデジタルを身近に感じつつ、より便利になる社会の発展が思い描かれていただろう。しかし、2019年末に突如発生した新型コロナウイルス感染症の世界的な流行によって状況は一変。人間の物理的な接触あるいは移動などが著しく規制され、ITがそれらの代替手段となった。デジタルがより浸透する世界が漠然と想起されるが、「VUCA(Volatility:変動、Uncertainty:不確実、Complexity:複雑、Ambiguity:あいまい)」の言葉が広まるなど予見しづらくなった。

 それでも企業や組織は、可能な限り将来のビジネス環境を予見して計画を立て、状況変化に対応しながら活動していかなければならない。石原氏は、「現実となり得るシナリオを準備することで、予見されるリスクを低減していくことが重要」と述べる。今回の作品は、エンターテインメントではあるものの、制作に当たっては学術的な観点から同社が考え得る2030年のデジタル世界の姿とサイバーセキュリティの状況のシナリオを練り上げた。

 テーマでは、国際的に長期的に継続すると予想される事象として、「地政学的対立からの技術覇権争い・イデオロギー対立」「技術革新による脅威の多様化・複雑化・高速化」「ビジネスのグローバル化」を設定。これらについて、2030年の時点で影響力が大きいと想定されるテクノロジーを選び、そのテクノロジーがもたらす社会事象、そして、社会事象から読み解ける思想をまとめている。

ドラマのシナリオにおける構成要素
ドラマのシナリオにおける構成要素

 まずテクノロジーでは、第5/6世代モバイル通信(5G/6G)、モノのインターネット(IoT)、人工知能(AI)、拡張/仮想現実(AR/VR)などをピックアップする。5G/6Gの超高速通信が社会インフラとなり、IoTが例えば心臓ペースメーカーのように人体領域にまで広がる。AIは現実世界の人間の人格といったものをデジタル空間に展開し、AR/VRは人間同士がメタバースのデジタル空間にコミュニケーションを交わすためのツールになるといった想定だ。

 社会事象としては、「サイバーフィジカル社会」「『知る』価値の低下と「『使う』価値の増大」「陰謀論の横行」を想定する。「サイバーフィジカル社会」は、例えば、人体に埋め込まれたIoTの心臓ペースメーカーを5G/6G経由で病院から医療行為として制御するようなことが日常となる。「『知る』価値の低下と「『使う』価値の増大」とは、情報を獲得する手段としてのITの価値が低下し、さまざまなITツールやサービスを組み合わせて駆使することが重視されることだという。「陰謀論の横行」とは、例えば、AR/VRで投影されるデジタル空間で交わすコミュニケーションの相手が実在の人間ではなく全てAIが作り出したバーチャル人格だったら――といったものになる。

 こうして2030年に考えられる思想には、「イデオロギーの多様化」「マタイ効果」「確証バイアス」を挙げる。人が知りたいこと、関心のあることがその人にとっての真実や価値観になり、人の数だけそれらが存在する多様性が当たり前になっていく。マタイ効果は、ここではITを持つ者と持たざる者との強烈な格差を指す。確証バイアスとは、人間が本人の信じる情報などに固執する性質を意味するが、2030年は現在以上に確証バイアスによってパーソナライズされた日常が当たり前になっているという。

 このように想定した2030年の世界で考えられるセキュリティの脅威は、物理的被害を伴うサイバー攻撃の増加やAIを駆使するサイバー攻撃の台頭、偽情報の流布、データの汚染、分散型サービス妨害(DDoS)攻撃という。その一部は、2021年現在で既に存在し問題となっている脅威だ。

 例えば、物理的被害を伴うサイバー攻撃の増加では、先に挙げたIoTの心臓ペースメーカーをリモートからハッキングし、装着者の生命を奪うと恐喝して金銭を要求する攻撃が考えられる。現実に、ランサムウェア攻撃により病院で医療行為ができなくなる被害は、世界各地で発生している。AIが関与する攻撃や偽情報の流布も、既にフェイクニュースのような形で顕在化している。2030年は攻撃と防御でAIが駆使され、人間の関与は不可能なまでになっている状況も想定し得る。

 データの汚染は、AIの根幹となるデータが侵害され、AIによるさまざまな認識や判断といったものの精度や正確さが毀損(きそん)されるリスクだが、これも2021年の現在は倫理的な観点も含め懸念事項となっている。DDoS攻撃は、IoTデバイスの爆発的普及によって現在以上にITインフラの可用性を脅かす存在になるかもしれないという。

2030年に想定されるセキュリティ脅威の一例
2030年に想定されるセキュリティ脅威の一例

 ドラマの舞台は架空の国家。石原氏によれば、Baines博士とFerguson氏は主に欧州で活動していることから、ドラマではプライバシーなどの点で人権意識の高い欧州の感性が強く描かれているかもしれないとのこと。「日本は世界に比べてデジタルイノベーションが乏しいと指摘されるが、一方で社会インフラが世界より堅牢でそれほどイノベーションを必要としないという見方もある。2030年の日本はドラマと違い、もっと2021年の現在に近い姿かもしれない。そうした点も踏まえてシナリオプランニングの一助になれば幸い」と話す。

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