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グリッド、「量子インパイア型分類アルゴリズム」を開発--古典マシンで量子特性を再現

大河原克行

2021-12-24 09:08

 グリッドは12月23日、量子アルゴリズムに着想を得た機械学習アルゴリズム「量子インパイア型分類アルゴリズム」を開発、シミュレーションと理論により有用性を実証したと発表した。古典コンピューター上で量子性能を再現させ量子特性を生かした計算を行うことができ、量子コンピューターの実機なしに古典コンピューター上で量子的特性を再現し、計算できるという。また、アルゴリズム内の幾つかの計算を量子コンピューターで行うことで、古典と量子によるハイブリット型計算を実現し、さらなる高速化も期待できるとしている。

 同社の曽我部完社長は、「『NISQ』と呼ばれる量子コンピューターの技術的課題は、量子回路作成が困難な点とノイズにより量子エラーが起きること。量子アルゴリズムを開発しても現在は、量子ビット数の制限やハードウェアのノイズで計算能力が制限され、実用的な問題に適応しづらい」と指摘した。R&Dグループの斯波廣大氏は、「量子ハードウェアは未熟で実用化に数十年かかるが、古典技術の性能向上で量子技術を応用でき、機械学習や人工知能(AI)分野に生かせる」と、今回の成果を強調した。

グリッドの曽我部完社長
グリッドの曽我部完社長

 現在は、従来の古典コンピューターでの機械学習より高性能のモデル構築実現の可能性が高いとされる量子機械学習アルゴリズム開発に注目が集まるが、従来の機械学習アルゴリズムでは、データ分類時の決め手となるデータをひとつひとつ吟味して判定した。今回のアルゴリズムは、サポートベクターマシン(SVM)では分類基準(境界線)を探すために2つのクラスのデータ間の距離が最大となるデータ点を見つけ、境界線に最も近いデータであるサポートベクトルによって境界線を引くことができ、未知データを分類することが可能になる点に着目した。

 「DBSCAN」と「Deutsch-Jozsa(DJ)」アルゴリズムを組み合わせた量子インスパイアアルゴリズムによりサポートベクトルを決定し、分類アルゴリズムを活用して、未知のデータを分類する。一つのデータ点を中心とした円の中のデータが全て同じラベルか、混在しているのかを判定するとともに、全てのデータ点に対し、円を描いて判定を進めて、全ての判定終了後にカウント数の高い順から上位数十%のみを抽出し、抽出されたデータがサポートベクトルとなる仕組みとしているのが特徴になる。機械学習分野で使われる分類問題での有用性を実証し、同じ性質の古典的アルゴリズム「Kernel SVM 」に比べ、モデル学習での計算速度では理論的に優位性があることが確認されたという。

量子インスパイア型分類アルゴリズムと従来手法の比較(出典:グリッド)
量子インスパイア型分類アルゴリズムと従来手法の比較(出典:グリッド)

 国内ではシミュレーテッドアニーリング系アルゴリズムの開発が促進され、これを専用マシンで構築し、最適化計算や金融分野での応用する動きが見られている。同社では、「量子アニーリング方式の量子インスパイアは、量子アニーリングマシンで表現される量子の特性を古典コンピューターでも表現するために開発されたものであり、専用計算マシンとアルゴリズムがあってようやく効果が得られるとする。これに対し今回の量子インスパイア分類アルゴリズムは、ゲート方式で表現される重ね合わせによる量子の特性の一部を古典コンピューターでも表現可能なアルゴリズムで、高い計算力を発揮できる」と説明する。

 また、「量子アニーリングは最適化問題の計算に特化しているため、量子アニーリング方式量子インスパイアも最適化問題に絞り込まれるのが、量子インスパイア分類アルゴリズムは、汎用型量子コンピューターで期待のゲート方式のため、最適化問題に加え機械学習領域の計算もできる応用性が大きな違い」としている。

 同社は、「Vapnik-Chervonenkis(VC)理論」を量子コンピューターで実用化するためのアルゴリズムの学習可能性も理論的に証明したという。斯波氏は、「モデルが複雑過ぎると、マシンはデータから学習せずデータを記憶してしまう可能性がある一方、学習されたモデルは、過学習で得意分野に効果はあるが未知の部分で効果を発揮できず汎用性が低下する。過学習により学習誤差が小さくテスト誤差は大きくなり、汎化誤差も大きくなる。学習可能性を実現するには過学習を回避する方法が必要で、そこにVC理論が用いる」とした。

グリッド R&Dグループの斯波廣大氏
グリッド R&Dグループの斯波廣大氏

 さらに「今回、論文で量子コンピューターでの汎化誤差を評価するために、モデルの複雑度を測れる方法をVC理論で証明しており、この論文をACMで2021年7月に公開した。それ以降、ダウンロード数は1位を維持し、慶應義塾大学の山本直樹教授から将来、教科書に載るレベルの論文だと評価されている」とも述べた。

量子インスパイアのアプローチ
量子インスパイアのアプローチ

 グリッドは2009年10月に設立。AI開発と量子コンピューター研究を行う。電力・エネルギー、物流・サプライチェーン、交通・都市などの領域で事業を推進。これら領域のインフラ最適化問題の解決に取り組んでいる。2017年に東京大学先端科学技術研究センターと連携し、同センターで「GRID lab」 を開設。最新アルゴリズムの研究を開始し、2018年から人工知能学会で数々の論文を発表している。米IBMの量子コンピューター「IBM Q」の利用契約を日本企業ではいち早く締結し、IBM Q Networkにも加盟。量子コンピューター実機でのアルゴリズムやソフトウェア開発を行う。

 また今回の説明会で同社は量子コンピューターを取り巻く動きにも言及した。2021年にIBMが127量子ビットの「IBM Quantum Eagle 」プロセッサーを発表。曽我部氏は、「量子ハードへの注目が集まった1年。商用化に向けたロードマップも明確になった」と総括した。IBMは発表したロードマップで、2023年に1121量子ビットの次世代システム「IBM quantum system two」の実用化を計画し、「1000量子ビット規模になるだけでなく、スーパーコンピューターのように、複数マシンを連結して大規模計算を行える」とした。

 また、Googleが量子コンピューターを開発する「Quantum AI campus」を開設する。将来的には100万量子ビットレベルのハードウェアで、曽我部氏は誤り訂正の実現を目指せると期待を込めた。超電導以外の量子コンピューター方式発表も大きなトピックスとした。「『IonQ』のイオントラップ方式は常温稼働でき、ノイズがほぼない。ソフトバンクやSamsungが出資し、各種IaaSからアクセス可能」と述べた。加えて、カナダのXanadu、中国のTuringo、米国のPsiQuantum、英国のORCAなどが光量子方式を開発しているとし、「量子通信などとの組み合わせで実用化しやすい点が注目される。さまざまな方式で量子コンピューターの実現が始まっている」とした。2021年7月に国内初の商用量子コンピューター「IBM Quantum System One」が神奈川県に設置されたことも話題になったとした。

 ソフトウェアは、NISQデバイスのノイズエラーの一部を抑制する機能が実証され、「エラー訂正技術が進化し、量子コンピューターの課題が解決されようとしている」と指摘。さらに日本では、大阪市立大学が量子化学計算の量子アルゴリズムを開発、「量子回路に実装しやすく、量子ゲートの並列処理がしやすい環境になる」とも述べた。

 また量子コンピューターを活用して、腫瘍を持つ個別の患者に適した医師の臨床意思決定支援を行う「量子深層強化学習アルゴリズム」が開発されたほか、量子CNNで勾配消失問題が起きないことが証明され、「これにより量子コンピューターは高速計算だけでなく画像認識にも高性能だと示された。2021年は量子コンピューターを用いたAI技術の応用研究が本格化した」とも述べた。

 2022年以降の量子コンピューターを取り巻く状況は、「100量子ビット超でハードウェアが大きく変化。ソフトウェアは、量子と古典のハイブリッド化開発が進んだが、誤り訂正アルゴリズムの開発やその実用化が促進されるほか、100量子ビット以上の大規模アルゴリズムが台頭してくる。アルゴリズムも、量子コンピューターの性能が古典コンピューターを上回ることを理論的に証明した論文が出て、研究レベルから実用化レベルへと進展するだろう。今後は小規模タスクでの量子アルゴリズムの実用化が見えてくる」とした。

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