トップインタビュー

DXやるなら、変化なき日本型IT投資の構造を変えるべし--日本オラクルの三澤社長

國谷武史 (編集部)

2022-01-04 07:00

 日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が叫ばれる中、「2025年の崖」問題に代表されるビジネスの中枢を担う基幹系業務システムの刷新が焦点となっている。これにはIT投資の構造改革が不可欠だとする日本オラクル 取締役 執行役 社長の三澤智光氏に、現状や2022年の展望を聞いた。

--2020年12月の就任時に、新たなビジョンや「DXの加速」「ミッションクリティカルシステムのクラウド化」などの重点施策を打ち出しました。2021年までの手応えはいかがですか。

日本オラクル 取締役 執行役 社長の三澤智光氏
日本オラクル 取締役 執行役 社長の三澤智光氏

 お客さまに信頼されるテクノロジーのアドバイザーになることが日本オラクルのミッションだと定義し、「Be A TRUSTED TECHNOLOGY ADVISOR」というビジョンを掲げました。実は、「お客さまに寄り添う」という言葉があまり好きではありません。オラクルは、メーカーであり、テクノロジーを開発している会社です。お客さまのビジネスをオラクルがリードすることはできませんが、テクノロジーやIT活用のプロフェッショナルとしてこの領域では、お客さまに寄り添うのではなくリードしていくというビジョンを設定したわけです。

 DXには「攻め」と「守り」があると言われますが、「攻め」だけでは基本的にうまく行かず、攻めの新規ビジネスを支えるモダンなバックエンドシステムが必須です。オラクルは、ビジネスアプリケーションをフルスイートのピュアSaaS(Software as a Service)として提供し、重厚長大で更改にも手間がかかる統合基幹業務システム(ERP)などの領域でも、身軽でノンカスタマイズという“夢のような”ことを可能にしました。お客さまには、これを利用していただくことで、「攻め」のトランスフォーメーションを支える「守り」のトランスフォーメーションを加速できることを提案しています。

 ピュアなSaaSを大企業でも利用する事例は、海外では多くありますが、日本ではその認知を含め乏しい状況でした。その中で2021年は、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)様に「Oracle Fusion Cloud Enterprise Resource Planning(ERP)」を全面採用いただきました。これまで日本の金融機関がミッションクリティカルシステムでクラウドを本格的に利用しているケースはほとんどなく、この事例はエポックメイキングなことだと言えます。

 「2025年の崖」と呼ばれるミッションクリティカルシステムのクラウド化は、今こそ真剣に実行しなければならないと感じています。なぜなら、1995年を基準とした場合、日本のIT投資規模はあまり変化せず、GDP(国内総生産)もほぼ停滞したままです。一方で、米国はこの間にIT投資が3倍以上増え、GDPも3倍近く成長しています。IT投資とGDPの変化に相関性があると断言できるわけではありませんが、ここは注目すべきポイントです。日本でもDXが叫ばれていますが、IT投資が増えない状況でDXを進めるということに少し違和感を覚えます。

 もし今後もIT投資が増えないのであれば、既存システムの運用に約8割が割かれる伝統的な日本のIT投資構造を変えるしかありません。この中身の大部分はレガシーシステムの維持するための人件費であり、これを削減しなければDXに必要なIT投資を捻出できません。システムの刷新で運用を自動化する技術を積極的に活用すれば、それができると考えています。しかし、単にIaaS(Infrastructure as a Service)を使って刷新するだけでは、期待した性能が得られず、その改修費がかさんで行き詰まったり、IaaSからオンプレミスに戻したりしているのが実態です。

 「Oracle Database」を使用するレガシーシステムやミッションクリティカルシステムをOracle Cloudに移行するだけでも、運用を自動化してコストを大きく削減できると断言します。この1年はこの事を真剣に訴求し、その事例として野村総合研究所(NRI)様が自社のデータセンターに「Oracle Dedicated Region Cloud@Customer」を導入され提供を開始した「BESTWAY」があります。提供基盤は、オラクルの最新のパブリッククラウドサービスと同等のものですが、セキュリティなど日本での要件に合わせて自社のデータセンターに導入した形です。BESTWAYは、日本においてクラウドから提供される最大規模のミッションクリティカルな金融サービスであり、この領域でもパブリッククラウドの技術を提供し、レガシーシステムを刷新できる姿を示すことができたと思います。

 当然ながらレガシーシステムの更改では、新しい体験の提供やコストの最適化といったさまざまな要件を伴いますから、モダナイゼーションというアプリケーションが必須です。BESTWAYの事例は、アーキテクチャーを変更することなくクラウドベースの新しい環境に移行して運用を自動化することにより、新サービスのリードタイムの大幅な短縮やユーザー体験の向上につなげる開発などに注力できるようになると期待しています。

--どれほどIT投資の構造が変わるのでしょうか。

 もちろん一概には言えませんが、仮にオラクルの製品で構築したシステムをオラクルのクラウド技術でモダナイズすれば、運用コストを半減できると確信しています。その分をDXに充てることができるようになります。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ホワイトペーパー

新着

ランキング

  1. セキュリティ

    「デジタル・フォレンジック」から始まるセキュリティ災禍論--活用したいIT業界の防災マニュアル

  2. 運用管理

    「無線LANがつながらない」という問い合わせにAIで対応、トラブル解決の切り札とは

  3. 運用管理

    Oracle DatabaseのAzure移行時におけるポイント、移行前に確認しておきたい障害対策

  4. 運用管理

    Google Chrome ブラウザ がセキュリティを強化、ゼロトラスト移行で高まるブラウザの重要性

  5. ビジネスアプリケーション

    技術進化でさらに発展するデータサイエンス/アナリティクス、最新の6大トレンドを解説

ZDNET Japan クイックポール

自社にとって最大のセキュリティ脅威は何ですか

NEWSLETTERS

エンタープライズ・コンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]