3D CADや3Dプリンター、機械学習を用いて高品質な義足を作成し、高額で購入できない人々へ安価な提供を目指すインスタリム(東京都千代田区)は、インドへ進出しようとしている。
インドがIT大国として世界中の耳目を集めていることは説明するまでもないが、的確な人材雇用は容易ではないという。
4500ドルの義足を100ドルに
インスタリムは世界で1億人以上が必要としている義肢装具を提供するスタートアップ企業である。世界保健機関(WHO)が2018年5月に公表した調査結果によれば、義肢装具を手にしているのは10%の約1000万人。残る約9000万人は金銭的事情から入手困難だという。同社の活動拠点であるフィリピンの平均給与は5万円以下、対して義足の平均価格は50万円。
インスタリム 代表取締役 CEO 徳島泰氏
高額になる理由として同社 代表取締役 最高経営責任者(CEO)徳島泰氏は「日本だと資格を持った義肢装具士という医学と工学の知識を併せ持つ方が石膏を削りながら、彫刻のように手間暇かけて作るしかない。さらに運動性能を高めるため、一人ひとりの体形にフィットするような医学的な最適化が必要。大量生産によるモノづくりメソッドが通用しない手作りの世界」だと解説する。
この社会的課題に対して同社は、診断で得たデータを独自の3D CADでモデル化し、仮の義足を作成して試着してもらう。衝突部分の確認など適合状態の検証結果をデータに反映させてから義足を作成。一連の工程で約4500ドルかかる義足を100ドル程度で生産できるという。
さらにアナログな工程を省くことで製作時間、3Dプリンターのみで生産することで設備費も従来の10分の1を実現したという。「これまで1カ月月程度を要した義足の製作も平均3日間、最短24時間」(徳島氏)で済むとしている。
非政府組織(NGO)などによる義足の寄付などもあるというが、「2つ問題がある。寄付金も膨大な需要に対応できる額ではない。もう1つは(寄付金で作られた)義足の品質が低く、30分程度で『痛くて装着し続けられない』という方もいらっしゃる。寄付団体のKPI(主要評価指標)が(義足の)提供本数に目を向けている」(徳島氏)
同社は500人程度の義足データを機械学習の学習データとして使用し、「ソケットの形状や義足内側の形状を自動出力するAI(人工知能)を開発」(徳島氏)することで、生産原価のコストダウンを実現している。2022年はインドへの進出を目指す。
インスタリムはフィリピンからインドへ活動の幅を広げることになるが、その理由は2つある。
1つは人口約14億人という巨大市場。もう1つは糖尿病患者の多さ。とある団体は2045年までにインドの糖尿病患者は1億3430万人になると予測。糖尿病患者の現在の第1位は1億1440万人で中国だが、2045年にはインドが1億3430万人で第1位になると予測している。経済産業省も以前からインドの状況を注視してきた。
徳島氏は「フィリピンも同様だが食生活が原因。毎食の炭水化物摂取量が9割に達し、罹患率が高まってしまう。また、社会的にも定期的な健康診断を義務付けていない」と解説した。
壊疽による足の切断から義足を必要とするケースは容易に想像できるが、「(インドの)地方に行くと切断せずに死を選択する方も少なくない。だが、義足を装着して社会復帰すれば、当人や家族も生活や人生を取り戻せる。“ソーシャル・ウェルフェア(社会福祉)”として必要な仕組み」(徳島氏)だとインド進出の理由を説明した。