過去2年間の大混乱は、私たちの生活のほぼすべての側面に影響を及ぼした。そして銀行業界でも、他の多くの業界と同じくさまざまな変化が起きている。
「この21カ月間で確実に行動が変わった」と語るのは、FICOのポートフォリオマーケティング担当シニアディレクターのDarryl Knopp氏だ。パンデミック発生前の銀行業務は、主に対面での活動であり、デジタルサービスが顧客のニーズをサポートしていた、とKnopp氏は指摘する。「今では、デジタルが銀行業務の中心となり、対面でのやりとりがデジタルをサポートするようになっている」
「体験だけでなく、以前は『無視』されていた実際の商品やサービスも、大幅に改善されて提供されるようになりつつある」。Knopp氏はこのように述べ、住宅ローンやクレジットカードローン、普通預金口座、銀行の従来の主力商品のオンラインバンキングが進歩した、と指摘した。「ほとんどの金融機関は、それをやり遂げる方法を理解している」
Knopp氏は、パーソナライゼーションとヒューマニゼーションという2つの特性が、今後の金融サービスのイノベーションを推進していくうえで重要だと考えている。
「このデータを大量に消費するようになったことで、顧客と実際に会話を始められるようになった。その顧客本人として話をする。顧客について以前よりもよく分かっているので、その顧客だけに向けた提案をすることができる。そういった意味でのパーソナライゼーションだ。1人へのマーケティングというこの考え方がパーソナライゼーションであり、当社はその能力を向上させている」と同氏は語る。
ヒューマニゼーションでは、顧客にとって有意義な人々とつながる方法や、直観的で有益な体験を提供する方法を見つけ出す。Knopp氏はそのヒューマニゼーションの要素を取り入れた企業の例として、Lemonade Insuranceを挙げる。
「それは、オンボーディング体験に人間味を持たせるといった細かなことだ。私が同社のアプリにアクセスすると、『おはよう、Darryl!』というメッセージが表示される」(Knopp氏)
挨拶の最後に感嘆符を付けるという単純なことでも、ユーザー体験に大きな違いを生む可能性がある。「あの感嘆符は、Lemonadeがやった中で最も賢明なことの1つだ。私に会えてうれしいというのだから。あの感嘆符は笑顔のデジタル版だ。今後、感嘆符に切り替えるブランドが増えていくと思う」。Knopp氏はこのように述べた。
マクロトレンド
一方、COVID-19のパンデミックにより、多数の消費者や小売企業もデジタル環境への移行を余儀なくされ、消費者はよりスマートな買い物の習慣を身につけるとともに、実店舗に足を運ぶ必要がなくなった。
「企業がデジタルに移行する理由は、店舗での営業ができないからであり、消費者にとっての理由は、以前行っていた場所に物理的に行けないからだ。それにより、消費の『よりスマートな』進化が永続的なものになっている」。MastercardのチーフエコノミストであるBricklin Dwyer氏はこのように述べた。「それを可能にしているのは、クラウドコンピューティングテクノロジーの基盤と、提供されている多数の機能だ。経済危機の中で新しいビジネスを始めるのは、ひどいアイデアであるように思えるが、現在のように消費が劇的に進化し、以前は存在しなかった新しい市場を獲得できる可能性がある場合は、話が別だ」とDwyer氏は米ZDNetに語った。
Dwyer氏は、最近のショッピングのトレンドである後払い決済サービス(BNPL)や店舗受取サービス(BOPIS)、さらには店舗返品サービス(BORIS)が消費者にとって非常に便利なものになっていると指摘する。「まさにそうしたシンプルさが最終的に重要な要素になる」
Dwyer氏が執筆したMastercardの年次経済報告書「Economy 2022」では、引き続き世界経済を形成すると考えられる5つの要因、すなわち貯蓄と支出、サプライチェーン、デジタルアクセラレーション、世界旅行、経済リスクに注目している。
- 消費者がパンデミック下で貯蓄したお金を使うことで、2022年の世界のGDPが3%成長する可能性がある。世帯の貯蓄率は2021年に大幅に増加し、パンデミック前の2倍近くの水準まで上昇した。その要因としては、COVID-19のパンデミックで人々が自宅にこもるようになったことが挙げられる。消費者がどれくらいのペースで貯蓄を使うかは予測が難しいが、世界経済への波及効果はあるだろう。たとえば、貯蓄の使用ペースが速かった場合、世界のGDPが4.5%増加する可能性がある。だがMastercardは、特に先進国において政府の景気刺激策が縮小され、インフレが進むため、2022年の経済成長は2021年と比較して鈍化すると予測している。
- 家計支出の対象はサービスから商品へと移ったが、2022年にはそれが元に戻るだろう。消費者の貯蓄の増加と移動の減少により、27年間かけて進んできたサービスへの移行が「大幅な」揺り戻しを見せた。レストラン、サロン、タクシーなど、サービス業界の大部分がパンデミックによって営業を停止し、商品への支出の割合が39%からピーク時には約47%に拡大したことで、サービス業界が壊滅的な打撃を受けると同時に、サプライチェーンに大きな負担がかかった。Mastercardは、国境が開かれてサービスの需要が再び拡大するにつれて、2022年にそのバランスが正常化していくと考えている。
- デジタル経済は定着しており、小売の20%がデジタルに移行した状況は2022年も続くだろう。Mastercardは、ある成長中のトレンドを発見した。それは、ワインクラブ、週1回の食料品配達、衣料品などのEコマースサブスクリプションの拡大だ。32の市場にまたがる約88%の国々で、2021年のサブスクリプションサービスが2020年比で増加した。サブスクリプションサービスに参入した企業には、自動車会社、バーチャルトレーニングパートナー、自転車レンタル、ペットサービスなどがある、とMastercardは結論付けた。シームレスな決済プロセスを可能にするクラウドベースのサービスが、サブスクリプション経済の成長に寄与していると考えられる。その結果、関心を持つ企業や消費者が増加した。
- 国をまたいだ移動の再開に伴って2022年にレジャー旅行が回復し、中距離や長距離のフライトが2022年に運航されるようになる。Mastercardによると、国内旅行や600マイル(約965km)未満の短距離旅行が回復し、600〜1800マイル(約965〜2897km)の中距離旅行は移動制限の緩和によって引き続き増加したが、長期旅行は依然として停滞していたという。世界各国の政府は、主要な移動経路を広範に封鎖するのではなく、ワクチンの義務化など、より重点的な安全対策を実施するようになる、とMastercardは予想している。
- 多種多様なリスクが2022年の世界経済を脅かして混乱させる。オミクロン株のようなCOVID-19の新たな変異株が2022年の最大のリスクになると予想されるが、Mastercardは回復の妨げとなり得る要因が他にも10個ほどあると考えている。たとえば、過去2年間で66%以上上昇した住宅価格の急激な再調整、石油の高騰、先進国の財政の崖、国際的な関税戦争などが挙げられる。
これらすべてがお金の未来に及ぼす影響は明白だ。経済は着実にデジタルファーストの基盤に移行しつつあり、デジタル機能を採用する企業は、特にCOVID-19のパンデミックの収束が近づく中で、消費者の需要と購買力の拡大に支えられて繁栄していくだろう。
お金の未来の形成に貢献している新興のフィンテック
現在の経済は引き続きストレスと制約を受けているものの、お金の未来と、お金を管理する方法は、急速な進化を続けているところだ。今日のフィンテック企業は、より多様な金融商品をより短期間で市場に投入する下準備を進めると同時に、新たな金融機会をより幅広い層の消費者に提供しようとしている。一方で、従来の金融サービス企業は、より新しく、より身軽で、技術をより俊敏に採用し、サービスを消費者に直接提供するフィンテック企業と、激しい競争を強いられることになる。競争は激化するが、そこから生まれるイノベーションも強烈なものになるだろう。