本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、SAPジャパン 代表取締役社長の鈴木洋史氏と、クアルトリクス カントリーマネージャーの熊代悟氏の発言を紹介する。
「日本企業は『失った30年』を取り戻すためにもデジタルを活用して生産性を高めよ」
(SAPジャパン 代表取締役社長の鈴木洋史氏)
SAPジャパン 代表取締役社長の鈴木洋史氏
SAPジャパンは先頃、2022年のビジネス戦略についてオンラインで社長会見を開いた。鈴木氏の冒頭の発言はその会見の質疑応答で、現在の日本企業が抱える最大の問題点について聞いた筆者の質問に答えたものである。
鈴木氏は会見で、2022年に企業が直面する課題について以下のように3つ挙げた。
1つ目は、ビジネス変革だ。「新型コロナウイルスの感染拡大を契機に大きく変化している社会状況の中で、従業員がより付加価値の高い業務に注力できるように、またその結果、企業がそれぞれの競争領域でビジネスをさらに成長できるように、継続的なビジネスの変革が不可欠だ」(鈴木氏)
2つ目は、サプライチェーンの強化だ。「2021年には多くの企業がサプライチェーンの危機に直面したが、その傾向は2022年も続くだろう。これに対応するためにはサプライチェーンをリアルタイムで可視化することが求められる」(同)
3つ目は、サステナビリティーの実現だ。「CO2の削減はもはや企業にとって避けて通れない。サステナビリティーの確実な実現のためには、CO2排出量や非財務指標などをビジネスプロセスに組み込んで可視化していくことが重要になってくる」(同)
そして、「この3つのアクションを企業が確実に推進していくために、SAPこそが大きな役割を果たせると考えている」と述べ、SAPジャパンの2022年の方針として図1に示した3つを掲げた。そのほか、会見の全体の内容については速報記事をご覧いただくとして、以下には会見の質疑応答で筆者の質問に答えた鈴木氏の発言を記しておこう。
図1:SAPジャパンの2022年の方針(出典:SAPジャパン)
現在の日本企業が抱える最大の問題点について、筆者が鈴木氏に質問したのは、多くの日本企業に基幹業務システムを提供するSAPジャパンの社長に就任してこの4月で2年になる同氏が、日本企業に対してどのような問題意識を抱いているかを聞いてみたかったからだ。同氏は次のように答えた。
「日本企業は、失われた30年というより『失った30年』と言ってもいい状況において、世界の中でどんどん競争力を失っていった。そうした危機感を強くお持ちの日本企業の経営層も少なくないが、生産人口が減少していく中で今後どのように生産性を高めていけばよいか、企業の存続に直結する問題だ。この問題に立ち向かうにはデジタル技術を駆使するしかない。私たちはそうした日本企業をしっかりとご支援していきたい」
冒頭の発言はこのコメントから抜粋したものである。「失った30年」と語った鈴木氏の問題意識の高さを感じた次第である。