規制をめぐる論争、航空業界のパニック、土壇場での延期などを経て、Cバンド周波数帯の提供が米国のAT&TとVerizonのキャリアネットワークでついに開始された。現時点では、潜在的な危険に関する報道に圧倒されて、米国のスマートフォンユーザーにどんな利点があるかを忘れてしまった人もいるかもしれない。この技術に対する理解を少し深められるよう、5Gの現状を説明し、Cバンドがなぜこれほど重要かを詳しく解説する。
5Gの種類
5Gとそれ以前のモバイルネットワークのキャリア周波数は、一般に以下の3つのカテゴリーに分類される。
- 低周波数帯:1GHz未満の周波数帯。
- 中周波数帯:1GHz〜6GHzのすべての周波数帯。この範囲内にあるのがCバンドだ(米国では3.7GHz〜3.98GHz)。
- 高周波数帯:6GHz以上のすべての周波数帯。30GHz〜300GHzで動作するミリ波信号はこれに含まれる。
T-Mobile、AT&T、Verizon Wirelessが現在提供している5Gサービスは、これら3つのカテゴリーすべてにわたって動作するが、低周波数帯の5G周波数(具体的には600MHz)を使用しているのはT-Mobileだけだ。
周波数帯がこれほど多い理由
無線信号の周波数は、スペクトルへ到達する際の高低によって特性が異なる。
一般に、周波数が低いほど、信号を基地局から遠くまで送ることができ、屋内に届きやすくなる。これが特に重要なのは、人口が少なく基地局の間隔が離れている地域や、スマートフォンが鉄筋コンクリートビルの奥深くで使われることが多い都市部だ。その代わりに、周波数が低くなるほど、一般的にデータ通信速度が低下する可能性がある。
逆に、高周波数帯、特にミリ波帯は、超高速の通信を提供するのに適しているが、到達距離はあまり長くなく、屋内に届きにくい。これは、高周波数帯での通信における超高速の信号の振動が非常に劣化しやすく、屋外でわずか数百フィート(100フィートは約30m)の距離を通過するかコンクリートの壁1枚を通り抜けただけで劣化してしまう傾向があるからだ。
こうした制限へのキャリア各社の対応
米国の「3大」キャリアはこれまで、低周波数帯、中周波数帯、高周波数帯の5G周波数の制限とトレードオフに、それぞれ異なる方法で対処してきた。
Verizon
Verizonの解決策の柱は、非常に高速だが地理的に非常に限定された5Gサービスエリアを展開することだった。そのスピードは理想的な状況では優に1Gbpsを超えたが、通常、それほどの速度を出せるのは、ミリ波基地局周辺の数街区内で、視界を遮るものが何もない場合だけだった。そのため、特定の地域における速度テストではT-Mobileに圧勝したものの、米国全土では大きな後れを取った。これは、Verizonの全米の5Gの大部分に使われていた技術が、実質的に複数の4G LTE接続を1つのデータストリームに結合したものだったことに起因する。
実際に、Verizonは自社のカバーエリアマップで、同社の「Nationwide 5G」サービスが「Verizon 4G LTEと並行して運用されており、パフォーマンスは同等」と認めている。4G LTEという名称ではないだけで、本質的には4G LTEのように動作する5Gだ。この種の接続のほとんどは、現実的な状況で50Mbps以上が出れば儲けものだろう。
T-Mobile
T-Mobileの5Gネットワークは、ほぼすべての測定結果において、米国で最も広範に利用できる5Gネットワークだとされている。最大の要因は、到達距離の長い低周波数帯(600MHz)と中周波数帯(2.5GHz)を採用したことだ。600MHzの設備は自社で用意したものだが、2.5GHzの設備は元々Sprint買収の一環として獲得したものだった。いずれの周波数帯も到達距離と透過性が優れており、2.5GHzを使用することで大容量のデータ通信が可能であるため、T-Mobileは全米で平均150Mbpsの速度を提供することができる。
AT&T
Verizonと同じく、AT&Tもミリ波5Gサービスを提供している。察しのとおり、非常に高速で到達範囲が非常に限られたサービスだ。同社は、低速だが遠くまで届く周波数帯にある850MHz接続も利用している。残念ながら、AT&Tはこの低周波数帯と高周波数帯の組み合わせを採用したせいで、中周波数帯を選んだT-Mobileのように優れた到達範囲と速度を米国全土で提供することができず、最近の多くの5Gテストで3位に甘んじている。
Cバンドの比較
Cバンドは、多くのアナリストから無線周波数帯の究極の「スイートスポット」とみなされており、到達範囲、透過性、通信速度を理想的なバランスで提供することができる。姉妹サイトの米CNETによる初期のテストから、Verizonのネットワークでは、基地局の真下に立っているときに通信速度が1.4Gbpsにまで達し、非常に広い範囲においては、より現実的な400Mbpsという速度を容易に達成できることが分かった。米CNETは地下駐車場の奥深くでも90Mbpsというまずまずの速度が出ることを確認しており、Cバンドの汎用性の高さが示されている。
それよりもはるかに控えめなAT&Tの初期の展開は、同様の高評価を得たが、対象となる市場がはるかに少数だったため、評価の数は少なかった。
もちろん、T-MobileはCバンドをめぐる競争に対処する必要があることを認識している。正確な計画は今もやや漠然としているが、同社が展開している2.5GHzの中周波数帯は、Cバンドの範囲に近いため、Cバンドの利点の多くをすでに提供している。米CNETのテストでは、T-Mobileの既存のネットワークが人口の密集した都市部でVerizonの新しいCバンドサービスと同等の400Mbpsをすでに提供でき、わずかに低い周波数によって、地下駐車場という同じ環境でさらに見事な100Mbpsもの速度を出せることが明らかになった。
今後の動き
米国の空港周辺でのCバンドの展開が今後どうなるのかは、はっきりしないままだが、米連邦航空局(FAA)とAT&T、Verizon Wirelessの間で合意が成立したことで、再び検討されるようになっている。承認を受ける空港やサービスエリアの広さは、これから明らかになるだろう。
それまでの間、Cバンド5Gが米国の他のあらゆる場所で、ものすごい勢いで普及するはずだ。Verizonはすでに、自社の真の5Gネットワークを最初のローンチで大幅に拡大しており、AT&Tは、少し速度が落ちるとはいえ、同様の設計を採用している。一方、T-Mobileは現在の2.5GHzネットワークを引き続き拡大、活用して、5Gのリーダーシップに向けた取り組みを維持する可能性が高い。
これに関して、最終的に大きな利益を得るのは消費者だろう。全く新しい段階に突入したワイヤレスネットワークの軍拡競争が激化する中で、多くの米国人が長年聞かされてきた5Gのスピードを、Cバンドによって初めて体験することになる。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。