Software as a Service(SaaS)が日本でも当たり前の選択肢となりつつあるようだ。日本オラクルでアプリケーション事業全体に責任を持つ常務執行役員 クラウド・アプリケーション事業統括の善浪広行氏は、「思ったより日本でSaaSの採用スピードが速いという手応えを感じている」と話す。同氏に日本のSaaS市場の現状とオラクルの戦略を聞いた。
2カ月で構築も
善浪氏は2021年8月に就任した。これまでの6カ月を振り返り、「ミッドレンジでの大規模受注が続いている。企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を考える時、オンプレミスのように5~10年後に再構築しなければならない時に人材をそろえられないかもしれないという不安もあるようだ。そこで全社でSaaS化していこうというプロジェクトも増えている」と述べる。
日本オラクル 常務執行役員 クラウド・アプリケーション事業統括の善浪広行氏
日本での事業関連の数字は明かしていないが、世界的にOracleのSaaS事業は好調だ。米国本社が2021年12月に発表した2022会計年度第2四半期業績では、「Oracle Fusion Cloud Enterprise Resource Planning(ERP)」の売上が前年同期比35%で成長した。
日本の顧客事例としては、グループ約200社を対象に会計、購買などの領域でSaaSを導入して経営基盤の整備を推進した三井住友フィナンシャルグループ、新しい領域となる間接材の集中調達で導入した本田技研工業などがある。クラウドならではの新しい動きとして善浪氏が紹介したのが、トヨタ自動車の子会社Woven Planetだ。「2カ月でERP(統合機関業務システム)を稼働したいという依頼に応えることができた。ハードウェア調達に始めるオンプレミスでは不可能」と善浪氏は振り返り、「SaaSにより、スピード感が変わってきている」と付け加えた。
最新の顧客事例が、ファイントゥデイ資生堂になる。2021年7月に「TSUBAKI」「ウーノ」など資生堂のパーソナルケア製品事業を引き継ぐ新会社として始動。年商1000億円以上の規模の事業会社が新規に立ち上がり、2年間でシステムを用意しなければならないという状況で、Fusion ERPを含む「Oracle Fusion Cloud Applications」を採用した。
採用の背景には、「基本はSaaS」というファイントゥデイのCIO(専務執行役員 CIO/IT本部長の小澤稔弘氏)の考え方があるという。善浪氏は、「(小澤氏は)自社所有せず、サービスを組み合わせてやっていくという発想をお持ちで、これによりグローバル展開もしやすくなると考えておられる。海外では、このようにファンクションで機能比較をするよりも、まずはSaaSとして検討を始めるケースが増えているが、日本でもこのような着眼点が出始めている」と話す。
日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 ビジネス開発本部 ERP/SCM戦略・企画担当ディレクターの中島透氏
また、日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 ビジネス開発本部 ERP/SCM戦略・企画担当ディレクターの中島透氏は、ファイントゥデイ資生堂での採用の背景として、「資生堂時代に使っていたシステムでも良いが、これから先を考えた時に、システムはサービスの組み合わせでしかない。サービスをいかにインテグレーションするかが変化への対応では大事」と説明する。
中島氏は、オラクルのSaaSの特徴について「データを中心にあらゆる業務エリアを幅広く網羅できる」と説明し、「現時点では思いつかないような事業が数年後に生まれている可能性もある。その時にすぐかじを切れるように全体を見通すことができる仕組みをオラクルのSaaSで構築してもらう」と述べる。
1つのデータベースを利用することはOracleのSaaSの重要な特徴だ
企業が対応すべき変化は、ビジネス環境における変化だけではない。人口動態の変化、テクノロジーの進化と変化への追従という点でもSaaSは有用な策であり、ここ数年は気候変動やSDGs(持続可能な開発目標)の観点でSaaSを選ぶ企業も増えていると善浪氏は言う。
「4方良し」、社内変革も進む
オラクルにおける日本でのSaaS事業のキーワードは「四方良し」。「顧客」「社会」「オラクル」の“3方”に「パートナー」を加えたものだ。「クラウドは継続利用が重要。三方良しはもちろんだが、日本ではIT人材の75%がシステムインテグレーターやコンサルティングファームにおり、パートナーは重要だ。SaaSを面白いと思ってくれるパートナーが増えており、新しい日本のDXのようなものを作っていきたい」と善浪氏は語る。
パートナー施策では、「クラウドネイティブのパートナーの育成も進めていきたい」と善浪氏。この他に、日本特有の課題解決に取り組む新規事業をパートナーと立ち上げることなども検討しているという。
エコシステムについては、パートナーだけでなく、顧客とのエンゲージメント強化も重要視している。米国本社の開発部隊を巻き込んでのプロジェクトレビューも進めており、「カットオーバー後も定期的にチェンジマネジメントにお付き合いできるような形で進めている」という。
2021年秋には、SaaSのユーザー会「OATUG(Oracle Applications & Technology Users Group)」を立ち上げた。同年11月後半に開催した「ERP/EPM SIG発足記念イベント」は、132社250人以上が参加するなど盛況に終わったという。
オラクル社内でも変革が進んでいる。20代社員を営業部長に登用するなど若手、そして女性幹部も積極活用するなどの組織改革が進行中で、「異なる年齢層が一緒に話しながら事業をやるという状況は個人的にすごくうれしい」と善浪氏は喜ぶ。
「オラクルは、これまで良いものを作れば売れるという考えでやってきたところがあった」と善浪氏。「現在、中核に据えているのはカスタマーサクセス。お客さまを成功へナビゲーションしていくことと、そのプロジェクトを進められるようにご提案できる部隊に重点投資している」と語った。