企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するための人事制度として「ジョブ型」を導入する動きが活発化している。人材を適材適所でなく「適所適材」で生かそうという施策だが、率直な疑問を一つ。この取り組みから「優れた経営者」は育つのか。ちょうどこのテーマでメディアなどに向けてオンライン説明会を開いた富士通の人事部門トップに、この疑問をぶつけてみた。
ジョブ型人事は適材適所でなく「適所適材」
ジョブ型人事制度とは、ジョブ(職務)内容を明確にした雇用形態と、それに基づく採用、人材配置、評価の仕組みのことを指す。雇用形態として注目されがちだが、この制度の導入は、「今いる人材で何ができるか」という従来のメンバーシップ型の発想から、「事業戦略を遂行するためにどんな人材が必要か」という考え方への、人的資本と組織の在り方に対する戦略的アプローチの転換を意味する。
幅広い業種の大手企業が相次いでジョブ型に取り組んでいるのは、人事制度のグローバルスタンダードに合わせることでグローバルな人材を獲得するとともに、ビジネスおよびマネジメントの変革に向けたDXを推進する上で、高度なスキルを持った人材が必要になるからだ。
写真1:筆者の質問に答える富士通 執行役員常務 CHROの平松浩樹氏
富士通が3月28日、この分野の取り組みについて開いた説明会では、「ジョブ型人材マネジメント」と表現していた。説明に立った同社 執行役員常務 最高人事責任者(CHRO)の平松浩樹氏はこの施策を導入した目的として、「全ての社員が魅力的な仕事に挑戦」「多様・多才な人材がグローバルに協働」「全ての社員が常に学び成長し続ける」といった3つを挙げた。説明での同氏の発言内容については速報記事をご覧いただくとして、ここでは筆者が印象深く感じた発言を抜粋して挙げておく(写真1)。
平松氏は人材マネジメントとしての新たな取り組みについて、次のように語った。
「人事制度は部分的に見直してもすぐに形骸化してしまう。全体的な整合性や一貫性がないと、目的とした効果が得られないと考えている。したがって、実際の事業戦略に応じて組織を設計し、ジョブを明確にしていく。そして評価や報酬の在り方を明確にする。その上で、採用やポスティングなど、事業部門起点でリソースマネジメントを行い、社員は明確になった魅力的なジョブにチャレンジができるように技術を学び、挑戦していく。こうした一貫性のある取り組みを新たな人事制度として実現したい」
その上で図1を示しながら、ジョブ型が従来のメンバーシップ型とどう違うかを対比して説明。先に述べた「適材適所でなく『適所適材』」という表現は、同社がジョブ型への取り組みを発表した2年前から平松氏が使っている常套句である。
図1:従来とジョブ型の人材マネジメントの違い(出典:富士通)