はじめまして。Works Human Intelligenceの伊藤裕之と申します。20年近く統合人事システム「COMPANY」の導入・保守コンサルタントとして、大手法人人事部門の制度変更、業務改善、運用などの課題と向き合ってきました。
ここ数年人事部門の方から「人事データを有効活用して戦略的な配置を行いたい」「退職予測を行い対策を打ちたい」というお声をいただくことが増えてきました。
中期経営計画に人事データ活用を前提とした人事施策を盛り込むケースも増えており、人事の領域でもデータ活用が経営課題として捉えられてきています。
矢野経済研究所の調査によれば、タレントマネジメントシステムの市場はここ2年で1.5倍近くに急拡大しています。
一方で、データ活用のためのプロジェクトをはじめ、タレントマネジメントツールを導入しても、当初の目的通りの効果を得られないケースも少なくありません。
ここでは、なぜ今人事データ活用に注目が集まっているのかを整理し、データ活用を阻む3つの壁とその壁を乗り越えるポイントについてご紹介します。
なぜ今人事データ活用が必要なのか
人事データ活用の必要性が高まる背景のひとつはやはりデジタルトランスフォーメーション(DX)です。パーソル総合研究所の調査では、人材マネジメントにおけるデジタル活用意向に対して75.5%が「進めた方がいい」と回答しているように、デジタル化とデータ活用の流れは、人事の世界においても大きなトレンドとなりつつあります。
図1:人材マネジメントでのデジタル活用意向(出典:パーソル総合研究所)
また、企業の市場価値の構成要素がこれまでの「モノ・カネ」に代表される有形資産から、変化に対応するためのアイデア、テクノロジー、ブランディングといった無形資産とそれを生み出す「ヒト」へと移行しつつあります。
現代の事業環境における変化の速さと国際的な競争に対応するためには、「ヒト」の力が企業価値に直結するため、人材戦略や人事施策の重要性は増しています。さらには、国際標準「ISO 30414」に代表される人的資本の開示指標やコーポレートガバナンス・コードの改定という形で、人的資本に関する企業の考え、進捗、取り組みを開示する責任も求められつつあります。
経営課題と人事課題が緊密化する中で、企業人事は、管理的な機能からより戦略的な機能へと転換が求められています。その実現においては「HR(Human Resource)テック」の進化を背景として、データや事実に基づいた判断精度の向上や勘に頼らない科学的な意思決定アプローチが必要とされ始めています。
たとえば、「デジタル人材の育成」を目標に掲げ、人材活用を活性化させて3年後、5年後の企業の成長につなげようとする取り組みが増加傾向にあります。
こうした人事施策の進捗、ギャップ把握、効果的な育成、適所適材の配置を実現するためには、人事データの活用が必要です。人事部門だけでなく経営層から現場管理職に至るまで、実務に必要な情報を提供できることが求められているといえます。