デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する企業と、そうした企業を顧客とするITベンダーの関係はどうあるべきなのか。大事なポイントは何なのか。これまでの取材を踏まえて考えてみたい。
DX人材の所在における日本の特殊な事情とは
「当社はお客さまがDXをしっかりと進められるように“伴走”していきたい」――DX事業を展開するITベンダーを取材すると、最近こういうコメントを聞くケースが増えた。とりわけ耳に残るのが「伴走」という言葉だ。筆者はこの言葉に少々引っ掛かりを覚える。なぜか。
「当社はお客さまがIT化をしっかりと進められるように“支援”していきたい」――これまでは、大半のベンダーがこう表現していたからだ。IT化に向けては「支援」だったのが、DXでは「伴走」したいと。なぜ、表現を変えたのか。ここにDXの大事なポイントがあるように感じたので、もう少し掘り下げてみたい。
この後は、ベンダーという言葉と対比しやすいように、DXを推進する企業を「ユーザー」と呼ぶことにする。伴走という言葉が出てくる前、DXに取り組むユーザーとベンダーの関係については「共創」(ベンダーによっては「協創」)という言葉が生まれ、今もよく使われている。支援は「ベンダーがユーザーに提供する」ものだが、共創はまさに「共に創る」パートナーという関係を印象づける言葉だ。そのパートナー関係をベンダーの立場で表現したのが、伴走という言葉なのだろう。
では、なぜDXを進める上で、共創や伴走という言葉が使われるようになったのか。
まず、DXは企業にとってビジネスおよびマネジメントの両面で抜本的な変革を自ら推進する取り組みだということが前提としてある。
これまでのIT化ではユーザーの要望に沿ってベンダーがシステムを構築する形だったが、実際にはユーザーが要望を出す段階からベンダーに任せきりのケースも少なくなかった。ただ、ベンダーからするとユーザーは「お客さま」なので、請け負い方はどうあれ、支援という表現が使われてきた背景がある。
それが、DXではユーザー自らが取り組むことを前提としているため、ユーザーは今、DX人材の確保に躍起だ。社内で育成するとともに外部から引き入れようという動きが、業種にかかわらず活発化している。だが、活発に動けば動くほど、DX人材の深刻な不足をユーザーの多くが感じている。
実は、そこには世界中でも日本だけの特殊な事情がある。それは、DX人材として即戦力となり得るITエンジニアの多くが、日本ではユーザーでなくベンダーに在籍していることだ。情報処理推進機構(IPA)の「DX白書2021」によると、その割合はユーザーが25%、ベンダーが75%と大きな開きがある。ちなみに、米国ではユーザーが65%、ベンダーが35%との調査結果(IPA「IT人材白書2017」)があり、グローバルでも同様の傾向とみられることから、日本だけがベンダーに偏っている状況となっている(図1)。
図1:IT企業とユーザー企業におけるエンジニアの割合の日米比較(出典:「AWS Partner Summit Japan 2022」基調講演の提示資料。情報処理推進機構の「IT人材白書/DX白書」を基にAWSジャパンが作成)
こうした状況になっているのは、先述したIT化に向けたユーザーとベンダーの関係が長年にわたって続いてきたからだとみられるが、ユーザーが自らDXに取り組むといってもDX人材の多くがベンダーに在籍している構図は急に変わらない。そこで、DXに向けたユーザーとベンダーの新たな関係を印象づける言葉が共創であり、そこでのベンダーの姿勢を表したのが伴走という言葉だというのは先にも述べた通りだ。