本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、米Dell Technologies 会長兼CEOのMichael Dell氏と、トレンドマイクロ セキュリティエバンジェリストの岡本勝之氏の発言を紹介する。
「これからはマルチクラウドの時代だ」
(米Dell Technologies 会長兼CEOのMichael Dell氏)
米Dell Technologies 会長兼CEOのMichael Dell氏
米Dell Technologies 会長兼最高経営責任者(CEO)のMichael Dell(マイケル・デル)氏は、同社が先頃、米国ラスベガスで開催した年次イベント「Dell Technologies World 2022」の基調講演で冒頭の発言を幾度か繰り返し、「マルチクラウド時代の到来」を強調した。
基調講演の概要については速報記事をご覧いただくとして、ここでは冒頭の発言に注目したい。
Dell氏は冒頭の発言の前振りとして次のように話した。
「当社はこれまでIT業界においてPCによるイノベーションを起こし、企業の情報システムやデータセンターの進化にも寄与してきた。ITは今や社会の隅々に浸透しつつある。とりわけ、世界がパンデミック(感染症の大流行)と対峙してきたこの2年余りは、ITが働き方を変え、人々をつなぐ役割を果たしてきた」
その上で、こう続けた。
「そのIT環境としてクラウドも広く使われるようになってきたが、これからはそれをさらに進化させたマルチクラウドの時代が来る。マルチクラウド環境においては、全てのデータおよびワークロードがシームレスに活用されるようになる。当社はこれまで培ってきたテクノロジーとそれを広くお届けするビジネスエコシステムによって、マルチクラウド時代も引き続き、お客さまのイノベーションに貢献できると確信している」
以上が、マルチクラウド時代の到来を強調するDell氏のコメントのエッセンスだが、筆者が同氏の一連の発言で注目したのは、一貫してマルチクラウドという言葉を前面に押し出していたことだ。
なぜ、マルチクラウドを前面に押し出していたことに注目したかといえば、まずDell TechnologiesはAmazon Web Services(AWS)などのようにパブリッククラウドサービスを提供しているわけではないからだ。さらに、マルチクラウドはAWSのようなクラウドサービスを複数利用する形態を指すことから、PCやサーバーなどプロダクトベンダーとしての色合いが濃い同社がマルチクラウドを強調しても、ピンと来ないというのが率直な感想である。
だが、興味深いのは、同社が言うマルチクラウドは図1に示すようにオンプレミス環境も含めた「ハイブリッドクラウド」と同様の形態であることだ。定義の仕方はさまざまなので、どちらであるべきという議論はさておき、注目すべきは同社がマルチクラウドという言葉を前面に押し出している点だ。
図1:Dell Technologiesが言う「マルチクラウド」(出典:Dell Technologies)
その理由としてまず考えられるのは、顧客がマルチクラウドを利用する際に必要となるプロダクトやサービスを取り揃えたビジネスを軸にしようとしていることだ。先述したパブリッククラウドサービスのような自前で用意できないものは、それこそAWSなどから調達すればよい。肝心なのは、顧客から見てマルチクラウドを利用する上で必要なソリューションを提供してくれる「相談窓口」になれるかどうかだ。
Dell Technologiesとしてそれを目論む急先鋒が、新たなサービス型ビジネスモデルとして売り出し中の「APEX(エーペックス)」なのだろうというのが、筆者の見立てだ。そう考えると、Dell氏がマルチクラウド時代の到来を強調するのは、市場のトレンドだけではなく、同社の非常に重要な戦略であることが見えてくる。