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誰一人取り残さない、ユーザー中心のDX改革

第1回:プロダクトアウト思想からの脱却--デジタル成功の鍵はデータ

大山忍 (Pendo.io Japan)

2022-06-01 07:00

1.全ての企業がソフトウェア企業になる

 「全ての企業がソフトウェア企業になる」。これは、Microsoft 最高経営責任者(CEO)のSatya Nadella氏をはじめ、名だたるグローバルなITリーダーたちが今後の企業の競争力にデジタルテクノロジーが必要不可欠であることを示唆するのに使われている表現だ。言い換えてみると、あらゆる業界、全ての産業でソフトウェアが顧客体験や従業員の働き方、そしてビジネスを変えていく差別化のポイントになっていくということだ。

 消費者の視点で周囲を見渡してみると、生活の中でソフトウェア体験は既に日常と化している。例えば、社会人の日常生活に欠かせない銀行のサービスを見てみよう。

 今や銀行口座の残高を確認するのに、銀行の現金自動預け払い機(ATM)で銀行通帳に記帳をする必要もないし、振込をするのに平日に半休を取り、通帳と印鑑を握りしめて銀行窓口に並ぶ必要もない。残高はモバイルのアプリで確認できるし、振込もオンラインバンキングで簡単に実行できる。インターネットの環境さえあれば、24時間いつでもどこでもだ。

 ソフトウェア体験がブランドへのロイヤルティーにつながることもしばしばである。例えば、電気自動車(EV)の代表格Teslaは、車両が“スマホ化”されていると言われている。すなわち、車両がモジュール化されたソフトウェアの組み合わせであり、ハード(車両)を買い換えなくても定期的なソフトウェアアップデートで性能が向上する。

 Teslaは米国でハリケーンが発生した際、避難警告地域のユーザーに対し、一時的にバッテリー容量を増やすアップグレードを無線ネットワーク経由で提供。走行可能距離を伸ばし、避難民を支援した同社の対応はニュースにもなった。

 この臨機応変なソフトウェアアップデートによってもたらされた顧客体験で、Teslaユーザーの顧客ロイヤルティーだけでなく、一般的なブランドへの信頼が高まったのは疑う余地もない。

2.攻めのDX/守りのDX:市民も顧客も従業員も取りこぼさないデジタルの世界

 コロナ禍による強制的な働き方のシフトや、経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の壁」のカウントダウンが始まっていることもあり、企業や行政のデジタル変革(DX)の推進はより重要性を増している。

 DXは「攻め」と「守り」の2つの側面で議論されることが多い。「攻めのDX」とは、一言で言うとデジタル活用によるサービス価値創造/顧客接点の改革であり、「守りのDX」とは、デジタル活用による業務プロセスの変革/効率化である。

 このDXの主要な役割を果たすソフトウェアの利用者のペルソナ(ユーザー像)を考えてみると、これはとても幅広い。企業にとっては、デジタルを活用した新規のサブスクリプションモデルやSaaSの有料サービスが新しい収益の源泉となる。これらのソフトウェアを利用してくれる顧客には、継続して使い続けてくれることがビジネス成功の要因だ。

 また、コロナによって多くの従業員が在宅勤務を体験した。この在宅勤務を支えたのがクラウドの業務ソフトウェアだ。ウィズコロナ(コロナとの共存)にシフトしつつある今日では、コロナ前のように通勤を前提とした働き方へ戻りつつある企業もあるが、子育て世代や介護など、さまざまなライフステージにいる優秀な人材は、在宅勤務の利便性を体験してしまうと、変わろうとしない会社に嫌気が差し、より良い働く環境を求めて人材が流出するリスクも高まっている。

 市民が利用する公共サービスでは、PCを使わない仕事に従事する労働者から、スマートフォンすら普段接する機会の少ないお年寄りまで、デジタルリテラシーのギャップが大きな市民でも、オンライン申請などの利便性を享受できるサービスにする必要がある。

 顧客、従業員、市民……、まさしくデジタルは今や誰一人として取り残すことなく、ユーザー体験を重視して作ることが必須条件ではあるのだが、日本の社会に存在する多くのソフトウェアは、作り手の思い込みや運営側の都合ばかりを優先したプロダクトアウトな仕組みが多く存在している。

3.ユーザーエクスペリエンスの良し悪しが企業の大きな損失リスクに

 日本人は、ともすると「気合」と「ガッツ」の根性論、あるいはマニュアル的なルールを守らせる組織論で、時代の変化とともに発生するオペレーション的な課題を乗り越えてきた感がある。だが、デジタルが進化する中で、ユーザー体験を軽視した使いにくい複雑なレガシーシステムを、人依存のオペレーションで問題回避することには限界があり、また大きな損失を被るリスクをもはらむ。

 企業リスクの例として、2020年末に発生した米国の大手銀行Citibankの事件を見てみよう。ある企業の融資の事務を代行していた同社は、債務者に対して800万ドル(約10億4000万円)の利息支払いをするところを、誤って元本の残り全額(9億ドル=約1170億円)を債務者の一部に誤送金してしまった。その後、同社は資金の返還を求める訴訟を起こしたが、その金額を取り戻すことができなかった。

 この誤送金は、分かりにくい金融システムのユーザー画面(UI)で、間違った箇所にチェックを入れてしまったのが直接の要因だが、実際に送金が実行されるまでに人的な承認プロセスがあり、幹部を含む三重の目視確認がされたにもかかわらず、このような事故が起きてしまったというわけだ。たとえ業務に慣れた従業員が使うシステムでさえユーザー体験(UX)を軽視すると被るリスクを、高い代償を払って世の中に広く知らしめた事例だ。

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