多くの企業ではデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めようにもIT人材不足が深刻だ。特に「IT知識とビジネス経験を兼ね備えた人材が見つからない」と嘆く声が日増しに高まっている。はっきり言おう。そんな人材はほとんどいない。ではどうすればよいか。自社流のリスキリングで育成していくしかない。
多くの企業が探す「IT&ビジネス人材」は幻想だ
まずは、IT人材の不足が深刻な状況を示した興味深い調査結果が先頃発表されたので紹介しよう。帝国データバンクが4月15日から30日にかけて1万1267社から回答を得てまとめた「人手不足に対する企業の動向調査」がそれだ。その中で、業種別に人材不足を訴える上位10位のランキングを示したのが、表1である。
表1:正社員の人手不足の割合・上位10業種(出典:帝国データバンク)
さまざまな業種が上がっている中で、今回の調査では「情報サービス」が最も高かった。帝国データバンクはこの結果に対し、「経済産業省が2030年までに40〜80万人のIT人材が不足すると試算するなど危惧されていた中で、依然としてIT人材の引き合いは強い」との見方を示した。
IT関連メディアでは不足と言ってもIT人材(もしくはDX人材)の話ばかりに終始するケースが少なくないが、他にも人手不足に悩む業種が幾つもある中においてもIT人材不足が最も深刻だという実態が明らかになった格好だ。改めて、問題の大きさを認識させられる結果である。
ただ、ITは他の業種と比べて不足している「人」の中身が違うのではないか。何かといえば、上記にもあるように「人材」と「人手」の違いだ。つまり、ITの人材は頭数を指す人手ではなく「ITの知識があって使いこなせる人」であることが条件となる。さらに、最近では全社でDXに取り組む企業が増えてきたことに伴い、ITだけでなくビジネス経験を兼ね備えた人材が求められるようになってきた。
だが、多くの企業が「IT&ビジネス人材」を探すようになって分かってきたのが、「そんな人材はなかなかいない」ことだ。筆者も複数の経営層や人事担当者から「見つからない」と異口同音に聞いた。
この分野で長年にわたって取材を重ねてきた立場から言わせてもらうと、冒頭でも触れたが、そんな人材はほとんどいない。幻想だ。特に日本では、ITベンダーが企業のシステム構築の大半を請け負ってきた背景から、IT人材の多くはITベンダーに所属しており、企業にはビジネス経験を兼ね備えたIT人材など育っていないし、育ててこなかったといえる(関連記事)。
ならば、ITベンダーから人材を獲得すればとの発想もあるだろうが、ITベンダーの人材も業務システムの構築に携わったことはあっても、ビジネスそのものの経験などないケースがほとんどだ。
では、どうすればよいのか。