なぜ、ニュースリリースとして公表される顧客事例は製品ベンダーの情報ばかりで、それに付加価値をつけて納入したパートナー企業の情報があまり出てこないのか。顧客企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援する「共創」の進め方などで、多くのユーザー企業にとっても役に立つ情報が結構あるはずだ。今回の「一言もの申す」は、この点について問題提起したい。
SAPジャパンと日本IBMが公表した顧客事例が典型
「トラスコ中山が、SAPの人事クラウド『SAP SuccessFactors』を採用」と題したニュースリリースが6月22日、SAPジャパンと日本IBMの連名で両社から発表された。機械工具卸売商社のトラスコ中山が、人事制度改革の基盤システムにSAPの人事クラウドサービスである「SAP SuccessFactors」を採用したという内容だ。
これにより、顧客企業であるトラスコ中山は人事制度のDXに向け、従業員のモチベーションを含める人材データの一元化とデータ活用(見せる・分析する)の促進に加え、業務の効率化、経営戦略への貢献、従業員一人一人が自律的にキャリアを育成できる環境づくりを目指す構えだ。
今回の事例で、製品ベンダーのSAPジャパンから見ればパートナー企業となる日本IBMは、トラスコ中山の社員が希望する職種に必要とされるコンピテンシー(能力や行動特性)と現有コンピテンシーのギャップの定量化とその共有、ギャップ解消に向けたキャリアプラン設計までの一連のプロセスについて、業務設計から実装まで一貫して支援したという。
その上で、今回のニュースリリースは最後に、「SAPジャパンと日本IBMは、今後も人事制度のDXを支援していく」と結んでいる。この結びの一文は、今回の話はトラスコ中山という顧客に向けたSAPジャパンと日本IBMの「共創プロジェクト」であり、これを機に人事DXソリューションを両社で「横展開」していこうとの決意表明とも見て取れる。
以上、今回のニュースリリースから抜粋した文面を紹介したが、トラスコ中山は何を目的としてSAPの人事クラウドサービスを採用したのか、その際、日本IBMはどのような付加価値をつけて納入したのか、といったそれぞれの立場の情報が分かりやすく記されている。
実は、顧客事例のニュースリリースとして、製品ベンダーだけでなくそのパートナー企業が果たした役割も含めて公表しているケースは、筆者の印象では珍しい。今回の場合、日本IBMの貢献度が大きかったので、SAPジャパンとの連名での発表に至ったとも推察できるが、かねて製品ベンダーの情報ばかりの顧客事例に疑問を抱いていた筆者としては、この機会に、顧客事例のニュースリリースにはパートナー企業の情報も記せ、と訴えたい。