アドビは6月30日、世界全体の事業概況と2022年度の国内での事業戦略について説明会を開催した。代表取締役社長の神谷知信氏に加え、同社のインターナショナルアドバイザリーボード(国際諮問委員会)の一員である経済学者の竹中平蔵氏も登壇した。
アドビ 代表取締役社長の神谷知信氏(左)、経済学者の竹中平蔵氏(右)(写真提供:アドビ)
竹中氏はデジタルの課題と機会として、「デジタルエコノミー」「デジタルトラスト」「デジタル人材」を掲げ、「テクノロジー企業の存在が一層重要になる」とした。デジタル人材の育成について、同氏は「主要国の後塵を拝している。その背景には大学や企業の人事における硬直性などがあり、とにかく急いで育成しなければならない」とコメントした。
神谷氏は、竹中氏が掲げた3つの課題と機会に対する取り組みを説明。1つ目の「デジタルエコノミー」の領域では、クリエイティブ関連のサービス群「Adobe Creative Cloud」、ビジネス関連のサービス群「Adobe Document Cloud」、マーケティング関連のサービス群「Adobe Experience Cloud」を活用する。
Creative Cloudの2021年度における全世界での売り上げは95億5000万ドルで、前年比23%増だった。Adobeは2021年12月、専門的な知識やスキルがなくても手軽にデザインができる無料アプリ「Adobe Express」を発表。同アプリについて、神谷氏は「特に自社のブランディングに使える予算が限られている中小企業にメリットがある」とアピールした。アドビは7月中旬から、下北沢駅周辺の商店街を対象に同アプリのワークショップを実施し、チラシやポスター、SNS用コンテンツなどによる情報発信を支援する。
Creative Cloud内のサービスで実現する制作物のイメージ
Document Cloudの2021年度における全世界での売り上げは19億7000万ドル、前年比32%増で、Creative CloudとExperience Cloudを含めた3つのソリューションの中で最も成長率が高いという。コロナ禍でテレワークが普及する一方、紙ベースの資料によって従業員が出社しなければいけないケースも多い。アドビはこうした課題の解決に取り組んでおり、その一環として電子署名サービス「Adobe Acrobat Sign」を展開している。民間企業のほかデジタル庁も同サービスを採用し、エストニアやシンガポールとの協力覚書の取り交わしに活用した。
Experience Cloudの2021年度における全世界での売り上げは38億7000万ドル、前年比24%増だった。神谷氏は「デジタルでの接点が増える中、多くの消費者はパーソナライズされたコンテンツを求めている。適切なコンテンツを適切なタイミングで提供できるかどうかが企業の収益やブランディングに直結している」と指摘した。ユーザー体験(UX)の改善に当たり、どこから始めればよいか分からない顧客も多いことから、アドビは自社サービスを導入して成果を上げた企業を表彰という形で共有している。