SAPが、大々的にサステナビリティー(持続可能性)を製品と事業戦略の柱に掲げてから2。年次イベント「SAP Sapphire 2022」では、二酸化炭素(CO2)排出量管理、サステナビリティーに配慮した製品設計と生産のためのソリューションなどを披露した。
これらの製品の背景にあるのは、SAP自身が14年間に渡って取り組んできた経験と実績だ。2008年に実験的に行った8カ月限定のプロジェクトを、企業全体のサステナビリティーへの取り組みに昇華させたのが、最高サステナビリティー責任者(CSO)のDaniel Schmid氏だ。「サステナビリティーがビジネスにならなければ、ビジネスは成立しない」と言い切るSchmid氏。そして、SAPでヘッド・オブ・プロダクト・マネジメント、サステナビリティー担当を務めるJames Sullivan氏に話を聞いた。
2030年にバリューチェーン全体でネットゼロ達成を目指す
SDGs(持続可能な開発目標)、ESG(環境・社会・ガバナンス)などの言葉を目にしない日はないぐらい、サステナビリティーに社会の関心が集まっている。Sullivan氏は、「10社中10社が気候変動にまつわる活動に関心を持っている。循環型経済は10社中9.5社、社会的不平等は10社中10社」と話す。
SAP ヘッド・オブ・プロダクト・マネジメント、サステナビリティー担当のJames Sullivan氏
消費者、パートナー企業など、周囲の変化もあるようだ。Sapphireに登壇したAdidas 最高情報責任者(CIO)のAndreas Hubert氏は、「約80%の消費者がAdidasのような企業が大規模にサステナブルなソリューションを導入すると期待している」と述べ、2025年までに90%の製品でサステナブルな素材を使う目標を掲げていることを明かしている。
「投資家、従業員も自社がサステナビリティーに取り組むことを求めている」とSchmid氏。SAPの場合、10年前に同社の投資家の中で、社会的責任に投資する投資家が占める比率は5~6%だったのが、現在は40%を占めるに至っているそうだ。従業員についても、94%が「SAPがサステナビリティーに真剣に取り組み、中核の事業戦略にこれを組み込むことは重要」と述べているという。
Schmid氏は、10年以上に渡る社内の取り組みを振り返り、「まずは2020年のCO2排出量を2000年レベルにするという目標を掲げた。どうやって達成できるのか詳しいことは分からなかったが、分かりやすく大きな目標を掲げたことで、取締役会の支援を取り付けることができた」と述べる。経営幹部が関与することで、予算配分を変えることができる。社員の航空機使用における「社内カーボンプライシング」などの仕組みを入れることができた。
その結果、2020年の目標を前倒して2017年に達成。その後、中期ターゲットとして2025年にカーボンニュートラルを目指すことにした。これについても、コロナ禍による出張の減少、オフィス稼働や通勤のためのCO2排出の削減が図られたことから、達成時期を2023年に前倒している。
1月には、バリューチェーン全体でのネットゼロの達成時期を2030年にすると発表した。やはり、当初目標の2050年から20年も前倒ししたことになる。
SAP自身のオペレーションからの排出は5%に過ぎず、84%が販売された製品を使用することで生じる排出量など、管理は簡単ではない。「かなり大胆な目標だ。プログラムを作り、主要なステークホルダーの支援を得ているところだ」とSchmid氏は話す。
そこでは、クラウドへの移行も重要だという。「SAPシステムを動かすためにサーバーなどを使うが、われわれは『SAP Green Cloud』としてコロケーション、(クラウドの)ハイパースケーラーを含むデータセンターを100%再生エネルギーで動かすプログラムを発表している」とSchmid氏は言う。現時点でハイパースケーラーの場合は、「Renewal Electricity Certificate」をSAPが購入することで100%の再生エネルギーとしている。
SAPは、財務レポートに加えて、CO2排出などのサステナビリティーの数値も開示した「SAP Integrated Report」を公開している。これは株主だけでなく、社員の意識改革にも役立っているという。
Schmid氏は、これまでの取り組みを振り返りながら、「サイエンスに基づくターゲットやイニシアチブを作る」「社員全員の意識」「透明性を持って測定する」などの学びがあったと話す。