企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進が加速するにつれ、人工知能(AI)はあらゆるビジネスにおいて必要不可欠なものとなっています。中でも、ビッグデータやデータサイエンスといった領域において、AIは多大な影響力を発揮しています。特に機械学習(ML)においては、「AutoML」というMLモデルの開発を自動化するツールの登場によって、「もはやデータサイエンティストは必要ないのではないか」という意見が散見されるようになっています。
これらのツールは、はたしてデータサイエンティストのような専門家を今後必要のないものとしていくのでしょうか。あるいは専門的な知識がなくてもデータサイエンティストと同じレベルで仕事ができるようになるのでしょうか。
AutoMLとは
そもそもAutoMLというのはどういったものでしょうか。AutoML(Automated Machine Learning:自動化された機械学習)とは、MLモデルの設計・構築を自動化するための手法全般、またはその概念を指します。これまではMLを最大限に活用するためには、学習モデルの作成、適用、最適化を行う高度な技術を持ったデータサイエンティストが必須でした。しかし、多くの企業にとって専属のデータサイエンティストを雇用するのはコスト面やデータソース不足の観点から言っても決して簡単ではありません。
AutoMLの目的は、MLに必要な全てのプロセスを自動化し、効率よくコストを削減することです。AutoMLは一般的に、AIとMLを既に業務に取り組んでいる企業全般、例えば製造業での生産設備や製造装置における予防や予知保全、またアパレル/デザイン業界でのデザインの自動化、生産の効率化、マーケティング/広告における効果的なキャンペーンの打ち出し方や効果測定などに有効といわれています。
AutoMLが普及することによってもたらされるものは多岐にわたりますが、特に言えることは、データサイエンティストへの依存度が低くなり、人材の不足やコスト面での問題も最小限に抑えることが可能になるということです。
AutoMLの有用性
AutoMLの有用性は、導入する業種、データタイプ、関係するモデルクラスによって異なります。また、どんな業界であれデジタルマーケティングで使う場合には、データの収集と前処理の面からAutoMLの恩恵を受けられると言えます。
具体的にマーケティング業界、マーケターにとってAutoMLがどのように有用なのかについて説明しましょう。AutoMLを使うことで、ユーザーのセグメント化やレコメンドエンジンを自動で構築する際に役に立ちます。また、マーケティング施策を実行する際に使用するマーケティングオートメーション(MA)ツールをより効率化することが可能です。
ご存じのようにデジタルマーケティングでは、人間が手作業で行うよりも自動化した方がはるかに効率的となる作業に、MAツールを適用することが可能です。従来、これらのプロセスにおいては、カスタマージャーニーマップの作成や重要業績評価指標(KPI)の設定、メール配信やウェブトラッキング、シナリオ設定といった十分なデータの裏付けがある反復作業や、複雑すぎる作業に関しては人間の手で行ってきました。AutoMLを導入すれば、人間は反復的な作業から解放され、量より質が求められるタスクにより時間を割けるようになります。
AutoMLが普及することにより、データサイエンティストへの依存度が低くなり、専業の人材を確保するのが難しい企業についても、人材の不足やコスト面での問題も最小限に抑えることが可能になります。しかし、AutoMLの普及によってデータサイエンティストは完全に不要となるわけではありません。
AutoMLを導入すれば、データサイエンティストは時間のかかる反復的な作業から解放され、クリエイティブなタスクにより多くの時間を割けるようになります。つまり、AutoMLがデータサイエンティストに取って代わるのではなく、データサイエンティストとAutoMLが協業で作業を行っていくイメージです。
企業がAutoMLを導入するに当たって
このように、企業にとって大変有効なAutoMLですが、注意すべき点があります。それはAutoMLを安易に適用しないようにするということです。なぜなら、AutoMLは人間の知識を完全に置き換えるものではないからです。導入するプロセスを選別することが重要です。
AutoMLで何ができるのか、それがどのように機能するのかを正しく理解していれば、企業はAutoMLを導入することで多くの利益を得るでしょう。機械は人間よりもはるかに効率良く作業を行い、ヒューマンエラーのリスクも最小限に抑えることが可能です。AutoMLを導入すれば、人間は反復的な作業から解放され、量より質が求められるタスクにより時間を割けるようになります。つまり、AutoMLがデータサイエンティストに取って代わるのではなく、人間と機械が手を取り合って作業するアプローチが必要ということです。
AutoMLは正しく使用する場合に限り、企業に多くのメリットをもたらします。機能を正しく理解し、自分の組織においてどのように利用すべきかを現実的に判断して、その可能性を最大限に活用することが大切です。
- ミン・スン(Min Sun)
- Appier チーフAIサイエンティスト
- 2005年からGoogle Brainの共同設立者の一人であるAndrew Ng(アンドリュー・エン)氏、元Google CloudのチーフサイエンティストであるFei-fei Li(フェイフェイ・リー)氏などのプロジェクトに携わり、米国人工知能学会(AAAI)をはじめ世界トップの人工知能学会で研究論文を発表。2014年に台湾国立清華大学の准教授に就任。2015~2017年には、CVGIP(Computer Vision Graphics and Image Processing)Best Paper Awardsを3年連続で受賞。専門分野は、コンピュータービジョン、自然言語処理、深層学習、強化学習。