デジタル技術によって、腫瘍のようなものを調べる際に「顕微鏡レベルで比較することが可能になった」とVogels氏は述べた。「人間の目ではそこまではできないが、AIと機械学習は、その種のパターンを発見し、放射線科医に詳しく調べるべき部分を指摘することができる」
「つまり放射線科医は、医療分野のAIは自分たちの力を強化してくれるものであり、今よりも夜に早く帰れるチャンスを与えてくれるものだと考えているということだ」
放射線医学の例は、「機械学習の能力と、データを保持できるようになったことによって、医療分野に大きな変化が起きている例の1つにすぎない」とVogels氏は言う。
同氏は、「最近では放射線科医が、cm単位ではなく、ほとんど顕微鏡レベルで腫瘍の成長を測定しようとしている」と説明し、「これは大きな変化だ」と述べた。機械学習を利用することで、初めて腫瘍の顕微鏡的な差異が調べられるようになったことは、大きな違いを生む可能性がある。
Vogels氏は、「特にMRIのスキャン画像には特定のパターンがあり、すでに悪性腫瘍と良性腫瘍の顕微鏡レベルの差異を判断できるようになっている」と述べた。最終的な判断を下しているのは今も放射線科医だが、機械学習によって、これまでは不可能だった「情報の表面化」が可能になったためだ。
同氏はまた、ほかの進歩の例として、ほとんどが手書きで残されている世界中の医療メモをデジタル化する試みを挙げた。これらの記録がデジタル化されれば、それをAIで整理して、「5年前でさえまったく不可能だったようなパターンの分析や、異なる切り口での分析が可能になる」という。
Vogels氏は、今後MRI画像を使った腫瘍の分析のような技術には、ディープラーニングなどをはじめとする、最も進化した形態のAIのイノベーションが求められるようになると主張した。「ただデータをかき集めてSQLでクエリを書けば、データから結果が得られるというものではない」と同氏は言う。必要なのはパターンマッチングと深層学習であり、使用されているAIモデルの多くはまだ進化の途上にある。
より一般的な話として、AIはどのような方向へ向かっているのかと尋ねると、Vogels氏は、AI技術はAmazonが20年間にわたって小売事業で使ってきたパーソナライゼーションのようなイノベーションを、多くの取り組みにもたらす可能性があると語った。
「今では、(機械学習を使って)実用的なシステムを作れるようになっており、実際Amazonの社内では、すでに20年にわたってそれをやり続けている」と同氏は言う。
「レコメンデーションにしても、パーソナライゼーションにしても、Amazonがやっていることの多くは、すでに何億ものウェブページを表示するのに使われており、それらはすべて機械学習を使った技術だ」
「例えばAmazonは、数十億件の過去の注文を保管しており、どれが不正な注文だったかを正確に把握している。それを使って作ったモデルを使えば、新しい注文を受けたときに、それが不正な注文である確率が何%かを判別することができる」
「このような点で、Amazonは常に5~10年先を行っている」と同氏は語った。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。