ITアナリストが知る日本企業の「ITの盲点」

第20回:2030年以降も生き残るIT部門・リーダーの姿とは? 先進テクノロジーとの正しい付き合い方--その3

取材・構成=翁長潤

2022-10-28 06:00

 本連載は、元ソニーのCIOで現在はガートナージャパンのエグゼクティブ プログラム シニアアドバイザー エグゼクティブパートナーを務める長谷島眞時氏が、ガートナーに在籍するアナリストとの対談を通じて日本企業のITの現状と将来への展望を解き明かしていく。

 現在、大きな変化の時を迎えているテクノロジー。社会や生活者・消費者のライフスタイル、企業のビジネスを含む全てのものを大きく変えようとしている。これから2030年に向け、テクノロジーの進化とともに世の中はどのように変容するのだろうか。今後、CIO(最高情報責任者)やITリーダーに求められるテクノロジーとの正しい付き合い方、新たな時代に獲得すべきマインドセットなどについて、亦賀忠明氏に尋ねた(全3回の3回目。1回目はこちら2回目はこちら)。

テクノロジーを駆使して、将来を創造する他国の企業群

長谷島:テクノロジーの進化に対して、先進的な海外企業の取り組みはどんな状況でしょうか。

亦賀:一例として挙げられるのが、「Software-Defined Vehicle」(SDV:ソフトウェア定義型自動車)です。先ほどもVolkswagenの例を出しましたが、Stellantisや中国の自動車会社などは、2030年以降の自動車の競争環境が変化すると前提して、積極的に投資して100年に一度の歴史的なゲームチェンジを狙っています。日本でも分かっている人はいますが、見て見ぬ振りをしている人もいます。このまま行くと、日本の自動車産業が大変なことになると相当懸念しています。仮に、SDVが重要と分かっても、日本企業にはそれを実践できるエンジニアが極めて限られています。この辺りはもっと加速度を上げて人材投資を図っていく必要があります。これは自動車産業だけの話ではなく、リテール、金融、製造、公共、医療他全ての産業に求められるようになっていきます。

長谷島:技術の将来像や企業経営が直面するかもしれない課題が既に見えている中で、「ここは手を打たなければ!」という能動的な動きが鈍い気がしますよね。将来十分に起こり得る事象に対して、「――なのか?」とか言ってるうちに、問題として顕在化してしまう、まさに“Too Late”ですね。海外の先進企業では、「かもしれない」という時点でそれなりに分析をして、「多少のリスクはあるけれども、手は打っておこうか」と、場合によっては思い切った投資をしていますよね。

亦賀:おっしゃる通りです。むしろ未来を予測するのではなく、自分たちで未来を創っているんです。

未来は待ち受けるより自分たちで作った方が面白いと、長谷島氏
未来は待ち受けるより自分たちで作った方が面白いと、長谷島氏

長谷島:面白いですよね。未来を自分たちで創れたら、それこそ完全に未来を予測できますからね。

亦賀:今、世の中をリードする企業は「未来は予想するのではなく創るもの」という発想で進んでいます。例えば、「GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)」に代表されるプラットフォーマーがこれだけ強くなったことも、自ら未来を創ったためです。先行者には先行者のリスクはあります。

 ただ、先行者だからこそのメリットも多く存在します。彼らはそうしたリスクも吸収しながら成長していきました。今や、彼らは数十兆円を売り上げ、そこから年間数兆円を開発投資に回し、さらに成長しようとする超巨大なIT企業です。あまりにもスケールが大きくなり過ぎて、政府レベルを含め、各所から警戒する声が生まれていることも確かです。それが昨今の「ソブリン(主権)」問題として浮上してきています。なお、AWSを「ECやっているところだろ」とか、Google Cloudを「Gmailだろ」とかして捉えている人が今でもいますが、こうした捉え方は相当なミスリードなので注意が必要です。

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