「Windows 11」で最初の「Feature Update」が2022年9月20日に公開されました。Windows 11のリリースから約1年。そろそろWindows 11への移行を検討し始めようと思っている企業も多いと思います。
企業のIT部門にとってOSの移行は、とても労力がかかるものでした。2001年にリリースされた「Windows XP」は、企業が本格的にPCを使い始めた最初のOSと言っても差し支えないでしょう。当時は、まだ運用もアプリケーションの開発も標準的なものがありませんでした。セキュリティ対策が不十分なアプリケーションも多くありました。セキュリティ問題を解決するために、企業で次に普及したWindows 7では、多くのセキュリティ対策が施されました。そのために企業は、多くのアプリケーションの修正を余儀なくされ、「Windows 7」への移行に苦労したものです。
Windows 7からWindows 10への移行において企業は、アプリケーションの運用をより大きく変える必要に迫られました。進化し続けるOSをうたったWindows 10では、Feature Update、いわゆる大型アップデートにより、半年に1回OSを移行するかのようなアップデート作業が必要となり、アップデートの運用方法を大きく変える必要がありました。またWindows 7への移行で苦労した多くの日本企業がぎりぎりまでWindows 7を使い、2020年1月のWindows 7のサポート切れ直前に移行を集中させたため、市場でPC需要がひっ迫し、サポート切れまでに移行が間に合わない企業も現れました。この辺はまだ記憶に新しいところです。
私は、仕事柄多くの企業からPC運用の相談をいただきます。感覚的にはなりますが、3月末が決算の企業では、2022年度下期(2022年10月~2023年3月)に2023年度のWindows 11への移行を計画しようという企業が多いように思います。Windows 10への移行時の経験からか、なるべく早めに済ませてしまおうというところでしょうが、アップデートに対して“慣れてきた”というのが最も大きな理由でしょう。
Feature Updateは、企業に“アップデートし続ける”という習慣をもたらしました。今までのITシステムは、導入したらいわゆる「塩漬け」「氷漬け」と言われて、致命的なバグが発生しない限り、アップデートしないものと決めつけられていました。PCのセキュリティパッチですら、まともに当てていない企業が多かったのも事実です。
Microsoftは、この状況を看過できませんでした。セキュリティ問題はもとより、背後には存在感を増す「iOS」や「Android」「Chromebook」などのスマートデバイスが法人IT市場におけるデバイスの覇権を虎視眈々(たんたん)と狙っています。スマートデバイス陣営は従来のPCと異なり、インターネットを介してOSやアプリケーションをアップデートし、常にセキュリティを最新にし、ユーザーに新しい体験を提供することを可能にしていました。このスタイルは、Microsoftにとって大いに脅威だったのでしょう。
Microsoftは、満を持してリリースしたWindows 10でFeature Updateという新しいアップデートのスタイルを打ち出しました。さすがに半年に1回のアップデートは、ユーザーへの影響が大き過ぎたのか、Microsoftにとっても負担が大き過ぎたのか、Windows 11のリリースの際に1年に1回に改められました。ただ、Windows 10以前のOSが概ね5年に1回のバージョンアップだったことを考えると、1年に1回でも劇的なライフサイクルの短縮です。
Feature Updateが登場した時、多くの企業のPC運用担当者は、「1年に2回のOS移行に相当するようなバージョンアップなんて無理だ!」と思ったものでしたが、実際には多くの企業で対応可能でした。1年の後半(H2)のリリースが実質的な安定板となったことから、1年に1回のアップデートが半ば常識になり、今回のWindows 11でポリシーの方を現実に合わせたと言った方が正しいでしょう。Microsoftは、年2回のアップデートというとんでもない頻度に大きく振っておきながら、実際には年1回のアップデートを定着させたとも言えます。最初からそれを狙っていたとしたら、さすがというべきでしょうか……。