コンピューターが職場で使われるようになってから約半世紀が過ぎたが、ビジネスパーソンは未だに勤務時間の大半をキーボードとモニターの前に座って過ごしている。
しかし、根本的に新しい何かがまもなく始まろうとしているのかもしれない。
Web3の夜明けが近づく中で、多数のテクノロジー企業、アナリスト、愛好家が、現実と融合した没入型のオンライン体験という新時代を迎え入れる準備を進めている。これは口語でメタバースと呼ばれるものだ。
現在のメタバースは現実というよりコンセプトに近いが、だからといって誇大宣伝が収まる気配はほとんどない。ネットワーキングシステムとソフトウェアを手がけるCienaが実施した世界的な調査によると、71%のビジネスパーソンは、メタバースが既存の業務慣行の一部になるとみているという。同様に、40%は、勤め先の企業が従来の「静的な」共同作業環境から没入型の環境へ2年以内に移行すると考えている。その環境を実現するのが、拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、複合現実(MR)などの各種「Extended Reality」(XR)テクノロジーだ。
XRはすでに職場で使用されているが、ユースケースはまだ限られている。GartnerのプリンシパルアナリストのTuong Nguyen氏によると、現在価値を示している事例の大半を占めるのは、「設備集約型」産業(製造、エネルギー、公益事業など)の現場作業、さらにはリモートガイダンス、設計シミュレーション、建築上の適性判断(機械を所定の場所に安全に設置できるかどうかの判断など)におけるARやMRの使用だという。医学教育でのMRの採用も拡大しており、その注目すべき例として、Microsoftの「HoloLens」ヘッドセットが一部の病院で外科医の訓練に使用されている。
XRとメタバースは同じものではないと認識することが重要だ。「メタバースはまだ存在していない」とNguyen氏は語る。「AR/VR/MRは、デジタルの体験またはインターフェースだ。メタバースはイノベーションのためのデジタルエコシステムと考えることができる。したがって、AR/MR/VRは、このエコシステムとやりとりする1つの手段ということになる」
仮想オフィスへようこそ
それでも、メタバースがもたらす機会に熱を上げる企業は多く、リモートワークとハイブリッドワークが定着して世界規模の接続が加速したことで、その傾向がさらに強まっている。
確かに、メタバースは、職場での物理的な体験と仮想的な体験をつなぐ空間になることで、現状のハイブリッドワークが抱える課題の解決策を提供する。リモートワークとバーチャル会議によって、コミュニティーの構築やエンゲージメントの維持が困難になり、企業は経営と文化に関する多数の課題を突きつけられることになった。
プロフェッショナルサービスを提供するAccentureは、バーチャルでの新人研修の支援を目的とした没入型の会議およびトレーニングプラットフォーム「Nth Floor」を開発した。
新入社員は「バーチャルキャンパス」を利用することで、オフィス勤務がメインではない場合もイベントやチームビルディング活動に参加し、会社や会社の価値観とつながることができる。
最も重要なのは、勤務場所に関係なく参加して貢献し、帰属意識を感じられる職場体験を開発していることだ、とAccentureのシニアマネージングディレクター兼デジタル体験担当リードのJason Warnke氏は語る。
「これにより、当社の文化、当社がどういう会社なのか、当社の文化が日々どのように顕在化しているかという点について、従業員の理解が深まることが分かった」とWarnke氏。
「また、Accentureの物理スペースのデジタルツインを20以上作成し、使い慣れた環境をメタバース内で従業員に提供している。これらのスペースですでに開催したコミュニティーイベントは、少人数でのイノベーションセッションから大規模なチームミーティング、社交的な催しまで、1000件以上にのぼる」
Nth Floorはプロフェッショナルサービス企業Accentureの自称「バーチャルキャンパス」だ。
提供:Accenture
デンマークを拠点とするデザイン会社Designitはこのところ、都市計画者や地方議会と協力して、複合現実とメタバースによって可能になる公共サービスや都市体験の変革について、理解を深めしようとしている。