山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

中国で広がるペットの鼻紋活用--保護した犬猫を照会を容易に

山谷剛史

2022-11-04 07:00

 中国では、指紋認証や顔認証だけでなく、鼻紋認証の実用化が進められている。ただし、人間ではなく、犬猫の鼻である。犬や猫の鼻紋は人間の指紋のようにそれぞれが固有の紋様であり、成長しても変わらないので個体識別として活用できる。

 ペットの識別ではマイクロチップがよく知られている。日本では2022年6月から犬と猫のマイクロチップ装着が義務化されている。これは、身元情報が登録されたマイクロチップを体内に埋め込むことで、迷子などで保護されたペットの身元確認をすぐにできるようにするものである。中国でもペットのマイクロチップ装着を進めているが、民間サービスや都市行政では鼻紋の活用も始まっている。

 鼻紋活用の研究やサービス運用を進めているのが、オンライン決済基盤「Alipay」で知られる螞蟻集団(アントグループ)である。同社は保険商品も取り扱っており、ペット保険もラインアップしている。申し込み時にペットの鼻紋と情報を登録し、保険金を請求する際は鼻紋で認証するだけでワンクリックで手続きが完了する。

 アントグループはさらに、アリペイでのペット登録を容易にするサービスもリリースしている。アプリ内のペットの迷子防止メニューから、ペット情報の入力と鼻紋と全身の写真を送るだけで登録可能だ。万一、ペットが迷子になった際は、アリペイの該当メニューからペットの名前や写真、見失った場所や時間、連絡方法などを登録する。迷子の犬猫を保護した人は、同じくアリペイの該当メニューから鼻紋の写真を送ることで登録済みのペットを照会し、無事に飼い主のもとに返すことができるというわけだ。

 筆者が中国在住時には、身代金を要求するペット盗難の存在を聞いていた。今のところまだ報道されていないが、このシステムを悪用したペット盗難が現れるかもしれない。ただ、そうした事件が起きても、アプリ利用には実名登録が必要なため、すぐに足がつくだろう。

 尖ったサービスというのは、リリース時には注目を浴びて新しいものが好きなテックファンがわれ先に飛びついた後、思うように利用者が増えず、サービスが続かないことがある。アリペイでは、著名なインフルエンサーのAustin(李佳琦)氏を広告塔にして、「淘宝網」(タオバオ)のライブコマースからの呼びかけによってライトユーザーにもサービスの存在をアピールした。

 ゼロコロナ政策下の中国では、コロナ禍前と比べて国内移動もままならない中、空前のペットブームが巻き起こった。また、鼻を中心に撮る自慢のペットの写真がSNSで映えるということもあって、「微博」(Weibo)や「微信」(WeChat)などのアプリ登録によく使われている。

 それでも見失ったペットを見つけるのは容易ではない。しかし、こうしたさまざまな施策の積み重ねでペットを発見できる可能性は高まる。何より、ペットの飼い主がサービスを認識することで、迷子の犬猫を保護したときに写真を撮るだけでペットの情報を照会できる点が大きな魅力だ。ペットにマイクロチップが埋め込まれていたとして、誰でも読み取り機を持っているわけではないだろう。

 アントグループが本拠を置く杭州市においても、一部の地域で鼻紋識別を導入してペットのオンライン登録が可能になった。「ペットのオンライン住民登録」のようなイメージだ。アリペイから杭州市の専用ミニプログラム「杭州犬管」を立ち上げ、必要事項を入力した上で鼻紋と全身の写真を撮るだけであり、「手続きには5分もかからない」と報じられている。今後は市全域に広げる予定だという。

 湖南省長沙市でも鼻紋認証が採用されている。こちらはアリペイではなく、深セン市悦保科技が開発した。長沙市の専用アプリを通して鼻紋と全身の写真で認証するシステムで「マイクロチップのための注射が不要で別途設備を必要としない」ことをアピールしている。他にも、ペットと同伴のイベントで、入場時に鼻紋認証を活用するケースもある。

 鼻紋認証の実現には深層学習が必要なのだという。アントグループの担当者は1日に平均5000件の鼻紋を機械学習させたとしている。犬猫は人間と違ってすぐ動いてしまうので、短時間でも鮮明に撮影できる専用カメラも開発したという。また、猫は犬よりも鼻が小さいため、品種や毛色、目など複数の要素を活用しているそうだ。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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