富士通は11月8日、量子コンピューティング技術とハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)を組みあわせて自動的にハイブリッドで計算する量子・HPCハイブリッド計算技術を開発したと発表した。世界初という。
量子コンピューターとHPCのハードウェア層だけでなく、その上位層の各アルゴリズムも自動で組み合わせて最適に計算できる技術は世界で初めてと説明する。
今回開発した技術は、量子コンピューティング技術やスーパーコンピューター「富岳」に代表されるHPC技術、量子効果そのものは利用していないが、量子技術に着想を得た複数の高速化技術である「量子インスパイアード」をベースにした「Fujitsu Quantum-inspired Computing Digital Annealer」(デジタルアニーラ)などを結集し、量子化学計算の問題に限らず、ユーザー企業が解きたい問題に対して計算時間や演算精度、コストといった要件に応じて人工知能(AI)が最適なコンピューターを自動で選択し演算できるソフトウェア構想「Computing Workload Broker」の先駆けになると解説する。
39量子ビットの量子コンピューターシミュレーターとともに、富岳にも使用されているプロセッサー「FUJITSU Processor A64FX(A64FX)」を搭載したスパコン 「FUJITSU Supercomputer PRIMEHPC FX700」を活用する。
同社 執行役員 シニアエグゼクティブバイスプレジデントで最高技術責任者(CTO)のVivek Mahajan氏は「HPCと量子をワンセットで動かすとで、顧客はコンピューティングパワーを意識せず、無意識で使えるプラットフォームを目指している」と概要を説明した。
時間が読めない量子化学計算
近年の富士通は各コンピューターソリューションに加えて、量子技術にも注力している。例えば、2022年は、富岳の技術を使用し、36量子ビット量子シミュレーターを開発したのは大きなターニングポイントとなった。
量子コンピューティングが話題になって数年経つが、社会実装には至っていない。HPCだけでは計算を終えられない、複雑な計算や量子化学計算に対して、量子コンピューティングは有用だとされている。
だが、同社 研究本部 コンピューティング研究所 シニアディレクター 中島耕太氏がこう説明する。
「量子化学計算を用いる際は原子間の距離などパラメーターを調整してシミュレーションしなければならない。さらに特性を分析するために多数のパラメーターに対するシミュレーションの実行が繰り返し何度も必要だ。ただ、量子化学計算の課題が二つある。一つはアルゴリズムの選択。どのアルゴリズムが計算結果に最適か否か判断するのは、量子化学計算の熟練者や過去の文献などから選択しているのが現状」
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もう一つの課題が時間測定。前述の通り、量子化学計算を実行するまでには、原子間の距離や角度を変えた多数のシミュレーションを重ねなければならない。
例えば、「翌朝までにシミュレーションを完了させたい要件があっても、各シミュレーションに要する時間を推定するのは困難。つまり、限られた時間や予算の範囲内でベストの結果を得ることは非常に難しい」(中島氏)