消費者の電子商取引(EC)体験を向上させるポイントはパーソナライズ以外にもある。それがECに表示している写真やイラストなどのクリエイティブとインターフェースだ。近年はデジタル表現が進化しており、コロナ禍を機に仮想現実(VR)や拡張現実(AR)などのテクノロジーをECに取り入れる企業も増えている。インタラクティブ性の高い多彩な表現方法により、商品の魅力やストーリーをより分かりやすく伝えることで購買につなげているわけだ。そんなECの進化と、EC構築側から見たクリエイティブ制作における進化について見ていく。
商品のストーリーや魅力を伝えやすくするVR/AR
ここ1〜2年、メタバースに関する注目度が急激に上がっている。そのきっかけはFacebookがメタバース事業への転換を発表し、社名も「Meta Platforms」(以下Meta)に変更したことだ。コロナ禍でテレワークが進んだこともあり、バーチャルオフィスへアバターが出勤して仕事するMetaの動画を見て「メタバース時代はもうすぐだ」と感じた方も多いかもしれない。マーケターの中には来るべきメタバース時代を予測してメタバース内で商品を売るバーチャル店舗の開発や、メタバース時代のマーケティング施策を立案している方もいるだろう。
メタバースが今後どのように進んでいくかはまだ分からないが、メタバースを構成するテクノロジーの1つであるVR、そして現実空間とデジタルとを融合させたARは既にEC領域に影響を与えている。CommerceNextが米国で実施した調査では「2020年のVR/ARの投資は1月時点で8%だったが、パンデミックをきっかけに6月にかけて大幅にアップして21%になった」としており、またInvespの調査では、顧客側も63%が「ARはコマース体験を向上させる」と回答しているという。
図1.ECにおけるVR/ARへの投資・期待は増加
ソファーや大型クッションなどのリビング家具を提供しているLOVESACもコロナ禍を機にEC内にバーチャルショールーム機能を作った企業の1つだ。LOVESACの人気商品は自分の好きなように組み合わせて配置できるソファーで、コロナ禍前はショールームで実際に並べ替えたり、ファブリックの色を変えたりして商品を選ぶことができたという。しかし新型コロナウイルス感染症の影響でショールームを閉じざるを得なくなったため、ソファーの3Dモデルを使い、画面上で組み合わせを確かめられる機能をEC内に構築した。いわばショールーム体験をECに移行した形だ。
図2.LOVESACのウェブサイトより(ドラッグ&ドロップで左のソファーの配置や色を変更できる)
この取り組みについてデジタルエージェンシーが調査したところ、「このEC経験により実際の購買につながった」という意見が多く見られた。実は同社ではショールームを閉鎖するに際し、「ショールームがないと実際の商品の良さを伝えにくくなるのではないか」という懸念があったという。その懸念を払拭したのがこの3Dモデルによるデジタルショールームだ。
またコスメメーカーのL'Oréalでは、スマートフォンのライブカメラ、もしくは自撮り写真を使ってアイシャドーや口紅を試すことができるARサービス「Makeup Virtual Try-on Maybelline」を展開している。店舗が休業しても自宅から気軽にコスメを試して購入できるという利点がある。
図3.L'Oréalのメイクアップ試着機能ページ
AR/VRというとゲームやデジタルアートのテクノロジーと捉えられがちだが、このようにECに取り入れることで顧客体験を向上させ、売り上げにつなげる力がある。文章や写真だけではなかなか分からない商品の使い心地や利用イメージを伝え、商品の魅力を知ってもらうためにAR/VRは役立つ技術だ。自社が提供している製品の良さやストーリーを体感してもらい、商品についてより知ってもらうためにも最新テクノロジーを有効活用することは大切だ。