富士通は12月1日、食品卸売業界における買掛金の照合業務を効率化するサービス「Fujitsu買掛照合AIサービス」の提供を開始すると発表した。
同サービスは、食品卸売企業が仕入先の食品メーカーから受け取る請求電子データと自社の買掛電子データを照合する「買掛照合業務」において、人工知能(AI)が過去の照合実績データを学習し、自動で照合結果を提示する。
食品卸売企業は毎月、食品メーカーから請求電子データを受け取り、自社の買掛電子データとの照合を行う。重要かつ労力がかかる業務であるため、以前からデジタル化は進んでおり、基幹システムがまず照合を行っていたが、基幹システムが「エラー」と判断し、担当者に引き渡すデータは膨大な量となっていた。Fujitsu買掛照合AIサービスのパイロット運用を実施した三菱食品では、数十~数百の派遣社員が他の業務と兼ねて確認していた。
富士通は開発に当たり、システムがエラーと判断したデータを調べたところ、大半がエラーではなく正しかったという。例えば自社の買掛電子データでは「リンゴ 大玉」、メーカーからの請求電子データでは「リンゴ L」と記載されている商品は実際には同じであるにもかかわらず、エラーであると判断されていた(図1)。担当する派遣社員の心理的な負担は大きく、プレッシャーを感じて2~3カ月で辞めてしまうなど、定着率にも影響を及ぼしていた。
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Fujitsu買掛照合AIサービスでは、AIが自然言語処理技術を用いて商品名や届先名を識別し、漢字とカタカナ、正式名称と略称といった違い、同一商品が取引先と異なる名称で登録された場合も認識する。運用する中で、人が「エラーに見えるが実際には許容範囲としているもの」をAIに教え込み、さらに精度を高めることも可能(図2)。逆に、実際には誤っているが、AIがエラーと判断せずに取引先に受け渡すのは最悪のケースであるため、精度は導入時点でほぼ100%を保持しているほか、照合結果をいったん担当者に共有するというプロセスを用意している。
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富士通は2019年から三菱食品と共同で、買掛照合を担当する従業員の暗黙知を抽出し、過去の照合実績データをAIに学習させることで同サービスを開発した。三菱食品では2020年からパイロット運用を実施し、1カ月当たり約2000時間かかっていた買掛照合業務が約800時間削減されたという。開発では富士通のエンジニアやデータアナリストが現場に赴き、担当者の話を聞くことで、約6500社に上るメーカーの表記の癖などを把握した。
富士通 グローバルカスタマーサクセスビジネスグループ Consumer Products&Service事業本部 商社・卸事業部 シニアマネージャーの小田英正氏は「日本の食品流通業界は膨大な種類の商品を取り扱っており、われわれ消費者にとっては豊かな食生活につながる一方、食品卸売企業では膨大なデータを照合しなければならない。労働力不足や食品ロスの削減、SDGs(持続可能な開発目標)などの動きにより今後は豊富な品ぞろえにも変化があるかもしれないが、まずは“バケツリレー”のサプライチェーンをスマートにし、誰がどの業務をやっても問題ない形にすることが重要である」と業界を取り巻く環境を説明した。
料金は初期費用が40万円。月額費用はベーシックプラン(ユーザーID数が70、メーカー数が1000まで)が90万円、ラージプラン(同150、同2000まで)が120万円。富士通は先行導入している三菱食品と連携し、質問対応などの導入サポートを実施する。サービスに関する質問は富士通、買掛照合の業務知識に関しては三菱食品が担当する。同サービスの売上目標は公表していないが、小田氏によると食品卸売業界の売り上げ約15%を占める上位9社のうち、約半数の企業への導入を目指しているという。