ニューラルネットワーク研究の先駆者、G・ヒントン氏が語る未来のコンピューター

Tiernan Ray (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 村上雅章 野崎裕子

2022-12-07 06:45

 人工知能(AI)研究の先駆者であるGeoffrey Hinton氏によると、機械学習(ML)という分野はコンピューターシステムに革命をもたらし、AIをトースターに組み込めるような、ハードウェアとソフトウェアの新たなかたちの融合を実現するという。

画面を指さす手
提供:Getty/d3sign

 Hinton氏は米国時間11月29日、ルイジアナ州ニューオリンズで開催された2022年のNeural Information Processing Systems(NeurIPS)カンファレンスにおける閉会の基調講演で、MLの研究コミュニティーは「ディープラーニング(DL)がコンピューターの開発方法に与える意味合いをなかなか理解できないでいる」と述べた。

 そして同氏は「私は、動作原理のまったく異なるコンピューターが登場すると予想している。その予想が現実のものとなるには2〜3年以上かかると思うが、このような完全に異質なコンピューターについて、今のうちに詳しく評価しておく価値は十分にあるはずだ」と続けた。

 同氏は、これまでのすべてのデジタルコンピューターのハードウェアが、同じソフトウェアであればどこで実行しても同じ結果を出せるという、信頼性を最優先にして作り上げられた「イモータルなもの」(不死の存在)になっているとし、「物理的に異なるハードウェア上で同じプログラムを実行できる(中略)その知識はイモータルなものとなっている」と述べた。


提供:Geoffrey Hinton氏

 こうした要件によってデジタルコンピューターは、Hinton氏が言うところの、「ハードウェアの可変性や確率論的性質、あいまいさ、アナログ的性質、不安定さといった、われわれにとって極めて有用であるかもしれないあらゆる属性」の活用機会を逃しているという。これらの属性は大きく信頼性を低下させるため、「2台の異なるハードウェアが命令レベルでまったく同じ振る舞いを見せる」ようにすることができなくなるのだ。

 Hinton氏は、未来のコンピューターシステムでは異なったアプローチが採用されるだろうと述べた。それは「ニューロモーフィック」なものであるとともに、「モータル」な性質、すなわち寿命を有するものになるという。つまり、あらゆるコンピューターはニューラルネットを表現したソフトウェアとハードウェアが密接に結合したものとなる。これは、デジタル素子ではなくアナログ素子が搭載されているという点で雑然としたものだが、不確定要素を取り込めるとともに、時とともに成長していけるようになるのだという。

 Hinton氏は「この考えは、今のところコンピューターサイエンティストらの好むものにはなっていない。というのも、これがハードウェアとソフトウェアを分けて考える今までの基本原則と真っ向から対立するためだ」と説明した。

 「われわれはモータルコンピューティングと呼ぶ道に進んでいこうとしている。それは学習した知識とハードウェアが不可分なシステムなのだ」(Hinton氏)

 同氏によると、こういったモータルコンピューターは「成長」でき、高価なチップ製造施設も不要になるという。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ホワイトペーパー

新着

ランキング

  1. セキュリティ

    「デジタル・フォレンジック」から始まるセキュリティ災禍論--活用したいIT業界の防災マニュアル

  2. 運用管理

    「無線LANがつながらない」という問い合わせにAIで対応、トラブル解決の切り札とは

  3. 運用管理

    Oracle DatabaseのAzure移行時におけるポイント、移行前に確認しておきたい障害対策

  4. 運用管理

    Google Chrome ブラウザ がセキュリティを強化、ゼロトラスト移行で高まるブラウザの重要性

  5. ビジネスアプリケーション

    技術進化でさらに発展するデータサイエンス/アナリティクス、最新の6大トレンドを解説

ZDNET Japan クイックポール

自社にとって最大のセキュリティ脅威は何ですか

NEWSLETTERS

エンタープライズ・コンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]