地域自治体や公益法人と共催すること
中堅中小企業のIT化やデジタル化には多くの支援が必要ですが、その中でも地域によるサポートは特に重要だと思います。地域特有の課題を認識した上で、継続的な支援を続けられる体制が望ましいです。今回講座を開催した理由も、大阪工業協会が会員企業と対話する中で、中堅中小企業のIT担当者への支援が急務と感じられたからです。
現在、大阪工業協会では、プログラミング教育をはじめとした広範囲なIT支援を積極的に実施しています。それと同時に、支援先に何を提供するかについては厳しく目利きし、ニーズに合致しているかどうかを精査しています。大阪工業協会からのお墨付きを得られた内容であれば、受講する際にも安心感を持てるでしょう。
今回の講座も、地方の公益法人や地方自治体、官公庁などから視察が来ました。国内には大規模な工業都市があり、多くの中堅中小の製造業でIT担当者が試行錯誤していると思います。条件がそろわないと開催に至るまで難しい面もありますが、同様のニーズがありましたらお問い合わせください。
5年がかりで実現
ここに至るまで、筆者は関西で産学連携のプロジェクトを経験しました。昨今、セミナーの多くが東京に集中しており大阪での開催が減っていることから、大阪の中堅中小企業に役立つセミナーが必要という声がありました。そこで、2018年に近畿大学と「CIO養成講座」を共催して多くの知見をいただき、2019年には関西学院大学とも共催しました。
特に、第14期の日本中小企業学会会長、関西学院大学大学院経営戦略研究科教授・同研究科長でもあった故佐竹隆幸氏とは打ち合わせを繰り返し、「IT担当者向けのミニMBAコース」のカリキュラム開発にご尽力をいただきました。次は、よりデジタル化に特化し中堅中小企業のDXを加速支援する講座(DXアクセラレーションプログラム)を開催しようということで、協力いただける企業にサーバーなどを提供して準備していたのですが、突然、佐竹教授の訃報に接しました。今回の開催は、完成した「DXアクセラレーション・チェックリスト」を講義の中に取り入れ、教授の意思をほんの少しでも継承し、盛会だったことが天国に伝わっているといいなと感じています。
DXアクセラレーション・チェックリスト
構想から実現までに5年の歳月が経過しました。構想を発表した時に、記者の方から「絶対に実現してほしい。ITベンダーは戦略が持続されないことが多いから」と激励をいただきました。確かにバズワードが目まぐるしく変わる中での戦略の継続は難しいことです。しかし、少人数で奮闘している中堅中小企業のIT担当者の支援は社会課題であると認識して、多くのベテランひとり情シスたちが力を合わせています。逆に5年の歳月を掛けたからこそ、多くのひとり情シスとの対話の時間を得ることができ、さまざまな情報を集めることができたのかもしれません。
将来的には、今回の受講者の中からも経験の浅いIT担当者を支援する講師陣に加わるような持続的なサイクルが実現して、中堅中小企業のIT担当者のスキルが向上し、日本のデジタル立国に貢献できるようになればいいと願っています。
- 清水博(しみず・ひろし)
- 一般社団法人 ひとり情シス協会
- 早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わり、米ヒューレット・パッカード・アジア太平洋本部のディレクターを歴任、ビジネスPC事業本部長。2015年にデルに入社。上席執行役員。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネスを倍増させ世界トップの部門となる。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。2020年定年退職後、会社代表、社団法人代表理事、企業顧問、大学・ビジネススクールでの講師などに従事。「ひとり情シス」(東洋経済新報社)、「ひとり情シス列伝」(ひとり情シス協会出版)の著書のほか、ひとり情シス、デジタルトランスフォーメーション関連記事の連載多数。産学連携として、近畿大学CIO養成講座、関西学院大学ミニMBAコース、大阪府工業協会ひとり情シス大学1日コースを主宰。