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週休3日制がもたらす影響--短い勤務時間で成果を出す働き方を考える - (page 2)

Owen Hughes (ZDNET.com) 翻訳校正: 川村インターナショナル

2023-01-10 07:30

生産性パズル

 Alex Soojung-Kim Pang氏は過去20年の大半にわたって、休息と仕事の関係を研究してきた。

 シリコンバレーのコンサルタントであり、書籍「Rest: Why You Get More Done When You Work Less」と「Shorter: How Smart Companies Work Less, Embrace Flexibility and Boost Productivity」の著者であるPang氏は、オーバーワークが個人にとっても企業にとっても非生産的であることを示す1世紀分の研究結果があると主張する。その研究は1900年代のスイスの時計メーカーまで遡る。これらのメーカーはおそらく史上初めて、工場での約8時間の労働後に生産性が急落することを発見した。

 現在4 Day Week Globalのグローバルプログラム兼開発マネージャーを務めているPang氏によると、医師、緊急救援隊員から教師、小売業者、接客担当者、クリエーターまで、職業を問わず同様の研究結果が見られるということだ。

Alex Pang氏はベストセラー書籍「Rest: Why You Get More Done When You Work Less」と「Shorter: How smart companies work less, embrace flexibility and boost productivity」の著者。(提供:Leila Sultanzadeh)
Alex Pang氏はベストセラー書籍「Rest: Why You Get More Done When You Work Less」と「Shorter: How smart companies work less, embrace flexibility and boost productivity」の著者。
提供:Leila Sultanzadeh

 「すべての事例で言えることは、組織に勤める人々は収穫期のような短期間なら集中してオーバーワーク状態を維持できるが、それが長く続くとミスが多発し、常習的な欠勤が増加し、作業を省略してズルをしがちになり、疲労も溜まるということ。その場合は通常、数カ月後には生産性が低下する」とPang氏は米ZDNETに語る。

 「深い知識を要する仕事を継続できるのは、実際のところ1日5時間までという証拠もある。ほとんどの人間の限界はその辺りだ」

 最新の職場では5時間の集中でも難しいということになる。

 2022年にAsanaが実施した1万人以上の知識労働者に対する調査では、専門職の通常勤務時間の58%が小さなタスクや事務作業に充てられていることがわかった。特殊技能を要する仕事に集中できる時間は全体の33%であり、主な戦略的目標の達成に向けた作業時間は全体のわずか9%だという。

 職場での時間を最適化できていないことは明白だ。「基本的に、週休3日制はすでに実現していると言える。時間を浪費する多数の作業に埋没しているだけだ」と、Pang氏は語る。

 「それらを一掃できるなら、多くの組織が週休3日制の導入の大部分を達成できるだろう」

 「パーキンソンの法則」とは、「仕事はその完了のために使える時間いっぱいまで膨張する」というもの。従業員に対して30分しかかからない仕事のために1時間を与えれば、長引かせるか、仕事を何重にも複雑化するかして、完了までに1時間丸々使うことになるという。

 同様に、1日あるいは1週間の勤務時間が増えるほど、価値の低い仕事や気を散らす時間の割合が増える。1週間の勤務時間を減らすことで、労働者はもっと仕事に意識を集中させようとする。そしてリーダーも、部下を仕事から遠ざけるような会議やその他の雑務について、もっと戦術的に設定しようとするだろう。

 Burns-Russell氏によると、Amplitudeは会議やフィードバックといったことを計画的に実施し始めた頃から、はるかに良い緊張感を持って組織を運営できているという。「週休3日制によって仕事への取り組み方が良くなったと従業員は言う。以前よりも時間に余裕のないプロセスに沿って働いており、はっきりと時限を定めて、目標達成に向けて手順を踏むようになったためだ」

 「時には、制限が良い仕事を生み出す」

 生産性と勤務時間の関連性については有力な証拠がある。デンマーク、ドイツ、ノルウェーは、欧州で最も短い年間労働時間であるにもかかわらず、EUで最も生産性の高い国に挙げられる。これに対して、ギリシャ、スペイン、英国では、平均労働時間は長く生産性は低い。

 この関連性において最も極端なのが中国だ。労働者の勤務時間は世界最長に分類される。一部の企業が「996」を熱心に採用しているためだ(996とは、午前9時から午後9時まで、週6日勤務することを指し、この場合の週労働時間は72時間となる)。中国は労働生産性が最も低い国に分類されるだけでなく、仕事に関連する健康問題の悩みも尽きない。

 米国は例外で、勤務時間は最長の部類だが、同時に生産性が最も高い国の1つでもある。それでも、2021年に米国生産性品質センター(American Productivity & Quality Center:APQC)が実施した調査によると、知識労働者の週勤務時間の4分の1が生産性を損なう作業に失われている。これには、職場でのコミュニケーション(3.6時間)、情報の検索(2.8時間)、不要あるいは非生産的な会議(2.2時間)などが当てはまる。

 これらから推測すると、週40時間勤務の米国の従業員が意味のある仕事に費やしている時間は30時間だけということになる。

 世界の労働時間は過去150年で減少傾向にあったが、コンピューター、スマートフォン、ソフトウェアの発展により、いつでも仕事ができるようになった。そのため、意識的か無意識かはともかく、たいていの場合、仕事に関わる時間は増えている。

 ハイブリッドワークやリモートワークにより、労働者がより柔軟な働き方や自分の時間を取り戻した一方で、新たな課題が生じていることも無視できない。たとえばプレゼンティーズム(病気でも出勤している状態)がリモートワークによって広がっているようだ。6月にGitLabとQatalogが2万人の知識労働者に対して実施した調査によると、54%がリモートワーク中に姿を現して仕事をしているように見せることにプレッシャーを感じており、その結果として週に平均5.5時間多く仕事をしているという。

 4 Day Week UKパイロットプログラムのキャンペーンディレクターであるJoe Ryle氏は、週休3日制がこの問題の解決策になると見ている。「姿を現して席に座るだけの仕事も文化だと誰もが知っているし、経験している。長い時間ただ座って、多くを生み出すこともなく過ごしているだけだ」

 「週休3日制はそのような時間を取り払い、次の段階に動き出すためにある。私は会話の時間が、成果を重視した仕事へと変化しているように思う」

 ヘンリー・フォードは、現在多くの企業が踏襲する週休2日制の標準化に貢献したとして高く評価されることが多い。1926年、フォードは自動車工場の労働者に対して週40時間勤務を導入した。シフトを短縮して休日を1日増やした方が、労働者が幸福を感じ生産性も高まることがわかったからだ。当時、標準的な勤務日は月曜から土曜までであった。

 「2日間の休日後に出社してきた従業員はとても新鮮で頭も冴えた状態となり、意識も手も作業に集中させることができるとわかった」とフォードは当時語った。「休みを増やした結果、多くの人の予想とはおそらく全く逆の状況となっている」

 フォードのスキームの成功を受けてほかのメーカーも追随し、最終的に月曜から金曜までが標準的な勤務日となった。しかしこれは100年前の話だ。当時から変わっていないことも多くある一方、世界労働人口の大半に知識が必要とされるようになった。1920年代の工場労働者と現代の労働者では、要求されることが大きく異なる。

 「過去数十年でこれほどの優れたオートメーションや新テクノロジーが実現され生産性が向上したというのに、それが休日を増やすという形で労働者に還元されていない」とRyle氏は語る。

 週休3日制の考え自体は新しくない。Ryle氏によると、労働組合が数十年前から求めてきた制度であり、週休3日制、あるいは4日制を標準的に導入している企業も世界中に多数ある。

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