「Polaris Dawn」の宇宙飛行は先駆的なミッションになるだろう。SpaceXが3月にも開始する予定のこのミッションで、乗組員は史上初の商業宇宙遊泳を試みる。また、Starlinkのレーザー通信システムを初めて宇宙空間でテストすることになる。すべてが計画どおりに進めば、Polaris Dawnで地球軌道の飛行における最高高度の記録が生まれる見込みだ。
それと同じくらい重要なのは、Polaris Dawnが人間の健康の研究における新境地の開拓を目指していることだろう。乗組員は多数の科学実験と研究実験を実施して、宇宙飛行と宇宙放射線の人体への影響を調べる。
だが、この民間宇宙ミッションの4人の乗組員の中で、人間生物学と医療の専門知識を持つメンバーは1人しかいない。それは、SpaceXのリード・スペース・オペレーションズ・エンジニアのAnna Menon氏だ。Menon氏は、米航空宇宙局(NASA)で国際宇宙ステーション(ISS)のバイオメディカルフライトコントローラーとして7年間働いていた。
SpaceXは、専門知識の不足が原因で独自の課題に直面した。訓練に使える時間が限られている中で、乗組員が自分たちだけで医療機器を使用して診断テストを実施できるようにするには、どうすればいいのだろうか。しかも、それを宇宙空間で、補助を受けずに、明らかに地球とは全く環境が違う場所で行わなければならない。
その解決策は、ビデオゲームであることが分かった。
SpaceXは創設7年の企業Level Exと提携して、Polaris Dawnの乗組員に医療用超音波検査を行うための訓練を実施した。Level Exは、高度なリアルタイムシミュレーション技術によって、医療訓練をゲーム化する。そのすべてが、スマートフォンにダウンロード可能なアプリケーションに入っている。
Level Exの創設者で最高経営責任者(CEO)を務めるSam Glassenberg氏は米ZDNETに対し、同社の使命は「遊びを通して医療活動を進歩させること」だと語った。
同社は「新しい治療法と新しい機器の採用率を高めるために、ビデオゲームのテクノロジーとデザインを使用している」とGlassenberg氏は説明した。「宇宙医学は、それを部分的に拡張したものにすぎない」
Glassenberg氏によると、同社のゲームを使用するプレーヤー数はすでに300万人で、その中には医療専門家が100万人以上含まれているという。同社のゲーム群は、心臓医や呼吸器医などの専門家向けに設計されている。たとえば「Gastro Ex」では、医師がさまざまな内視鏡機器を使用して、一見本物のように見えるが実際にはバーチャルの人体の内部で消化管手術の練習をすることができる。一方、「Airway Ex」では、実物のような手術室環境でバーチャルの患者に挿管の練習をすることが可能だ。
Level Exのゲームのスクリーンショット。バーチャルの患者が口を開けた画像が表示されている。
提供:Level Ex
ゲームをプレイすることで、医師免許の更新に必要な医師生涯教育(CME)の単位を取得できるのは、Level Exのゲームだけだ、とGlassenberg氏は述べた。同社はまた、大手ライフサイエンス機器メーカー約30社と協力して、各社のテクノロジーの学習と採用を加速させている。
医療訓練シミュレーションは、医療専門家の共感を呼んでいる。これは、新しい手術方法や新しい機器の使い方を生身の患者で学ぶという代替方法から大きく前進しているからだ。それと同じ論理が、本格的な医療訓練を受ける時間がない宇宙飛行士にも明らかに当てはまる。宇宙飛行士は1週間の宇宙ミッションに参加するために、何年にもわたる訓練を受ける。学ぶべきことが非常に多く、「宇宙医療の医学学位を全員に取らせる時間はない」とGlassenberg氏は語った。