昨今のIT環境は非常に複雑化しているため、人手だけでは効果的に管理・維持することはできません。開発者やオペレーターは、サーバーやコンテナーの故障、ストレージの容量不足、速度が遅く信頼性の低いネットワークリンク、コードのバグ、一部のアプリケーションにおける予測不可能なワークロードに対処しなければなりません。最悪な場合、深刻なサービス停止が発生し、アプリケーションスタックの複数のレベルから膨大なアラートが発生し、ログメッセージが溢れます。ダッシュボード上にはエラーが明示されますが、人的リソースが不足する状況において、アナログな手法でこうした問題に対処することは非現実的といえます。
ITインフラの管理は、決して新たな課題ではありません。しかし、自動化も新しいものではありません。IT担当者は、バックアップの実行やオペレーティングシステム(OS)に対するパッチの配布など、反復的かつ予測的なタスクを自動化するツールを長年使ってきました。
また、パフォーマンス監視ツールやアラートソリューションを利用して、エンドユーザーの体験に影響を与える可能性があるデータベースサーバーの永続的なストレージの不足による可用性の問題やダウンタイムなど、サービスを停止させる恐れのある既知の問題を監視してきました。
他方で、新しい点もあります。それは、インフラと、その上で稼働するサービスの規模と多様性であり、こうした新しい課題に対処するためには、人工知能(AI)をベースとしたツールや技術が必要です。企業が取り組む規模でITインフラを運用するには、より高度な自動化を適用して、システムの可用性、パフォーマンス、スケーラビリティーを確保する必要があります。これは、一般に「Artificial Intelligence for IT Operations」(AIOps)と呼ばれています。
Grand View Researchのレポートによると、世界のAIOpsプラットフォーム市場規模は、2022年から年平均成長率(CAGR)17.7%で成長し、2030年には338億2000万ドル(約4兆4900億円)に達すると予測されています。この予測は、現時点でまだ多くの企業がAIを活用したITシステムの運用自動化を検討する段階にある日本市場の傾向を必ずしも反映していませんが、数年後には、日本でもこうした世界の潮流に沿った市場になることが予想されます。実際、日本におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の市場規模は拡大しており、この分野への金融投資額は、2030年には5兆1957億円に達すると言われています。