人工知能(AI)のテクノロジーは、現在の社会、産業、経済にさまざまな作用をもたらし始めている。2015年にAIが人の仕事に与える影響を予想した論文「The Future of Employment(雇用の未来)」(PDF)を発表した英オックスフォード大学のMichael A. Osborne教授に、テクノロジーとしてのAIの現在地や企業、ビジネスに与えている影響、今後予想される変化や各種テクノロジーとの関係などを尋ねた。同氏の見解を2回にわたり紹介する(前回はこちら)。
英オックスフォード大学 機械学習教授のMichael A. Osborne氏。2010年、英オックスフォード大学で機械学習の博士号を取得(Ph.D)。同大学でポスドク、リサーチフェローなどを経て、2012年に准教授、2019年から現職。日本のエクサウィザーズの顧問を務める
--コロナ禍の影響に加えて日本は少子高齢化で人口が減少し、運輸など一部の業界や企業で労働力を確保できない事態が進んでいます。この課題にAIの利用がどう影響すると思いますか。
これは非常に興味深い状況です。人口動態の変化は日本を含めたほとんどの先進国に見られる現象ですし、多くの国で高齢化が進行しています。AIは、このような人口動態の変化の過渡期においても大きく貢献すると思います。
まず直接的には、AIによる自動化が高齢化で労働力不足に陥っている仕事を置き換えてくれます。高齢化によるタクシードライバーの減少に対して、AIによる無人運転車を導入することができるかもしれません。
さらに重要なことは、AIが高齢労働者の作業を支援できるという点です。AIの支援があれば、高齢者はより長く働くことができるようになるでしょう。例えば、AIが提供する顔認識や自動文字書き起こしといったサービスを利用することで作業効率が向上し、高齢者がAIを活用することで、リモートからでも効率的に作業できるようになることが期待されます。
また、高齢者の健康維持の面でもAIは貢献してくれるでしょう。もちろんAIそのものが高齢者を介護できるわけではありませんが、それ以外の部分の作業がAIに置き換わることによって、間接的にでもAIが介護を支える役割を果たしてくれると思います。長期に渡る健康管理においてもAIはより良いアシスタントになり得ます。
例えば、持病を抱えた人がウェアラブルデバイスを装着することで、持病に伴う症状が起きる前にその兆候を検出することができるでしょう。認知症の予防的な手段としても有効性が期待されます。人は歳を取るごとに忘れやすくなったり予定を管理するのが難しくなったりしますが、AIがスケジュールを管理することで、直前に予定を知らせてくれるなどのサポートをしてくれます。
このようにAIは、高齢者の健康と生産性の維持に大きく寄与してくれると思います。