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牛の町からドローンの町へ--休眠空港を試験場にして地域活性を進める米国小都市 - (page 4)

Stephanie Condon (ZDNET.com) 翻訳校正: 川村インターナショナル

2023-02-09 07:30

 「農場を使用する日は補償金を支払ってくれる。金額は高くないが、何もないよりいい」と同氏は語る。「事業者は車を止めドローンを飛ばし、その後荷物をまとめて家に帰る。もし彼らの姿を見かけなければ、そこで何かが行われたということを知る由もない」

 ドローン飛行が始まった頃、Hill氏は、その飛行を監視している人と話そうとして声をかけに行ったという。しかし、Rangeの常連顧客が増えるにつれ、親しげな会話は諦めた。

 「話に行っても、内気なオタクばかりで、誰も私に関心を示さなかった」と同氏は笑みを浮かべる。

 無関心であることは農場の人たちにも言える、とRangeの従業員は語る。

 「地元の人たちは空港での出来事を気にしていないようで、その点にわれわれはとても満足している」とChrisman氏。「収穫で金を稼ごうと忙しく、奇妙なドローンが周辺を飛んでいても気にしない。顧客はそれをとても好意的に受け止めているようだ」

 口の堅さを約束することもRangeの顧客獲得につながっている。顧客はまだ公表したくないテクノロジーを取り扱っているからだ。しかし同時に、このようなビジネスの機密性があるために、Rangeがサービスを他の潜在顧客に売り出すことが難しかった。

 例えば、AirbusはRange初の有名顧客の1社だ。同社は、広く知られた乗員1名の完全電動ティルトウィングデモ機「Vahana」の飛行試験にRangeを活用。VahanaはセルフパイロットのeVTOL(電動垂直離着陸機)の技術発展に貢献した。AirbusはRangeで138回の飛行試験を実施したが、2年以上そのことを公表しなかった。

 「顧客が内密にしておきたければ、われわれも内密にする。億万長者の愛人のようなものだ」(Chrisman氏)

 現在のRangeはかつてないほど活発だ。2022年は10月31日時点で2万回以上の飛行を行った。RangeマネージャーのDarryl Abling氏は、2022年末までには2万5000回を超えると予想した。同氏は米空軍の退役軍人であり、Northrop Grummanで航空電子工学の分野に29年間携わった後、ペンドルトンのチームに加わった。

 Chrisman氏の推定によれば、Rangeは米国内で最も活発なUAS区域であり、ついに現金収入も得られるようになった。空港の収益については、2014年から2017年にかけて年間約5万ドルで横ばいだったが、2022年は200万ドルを上回る見込みだ。

ペンドルトン空港で試験を行ったドローン(一部)。提供:Stephanie Condon / ZDNET
ペンドルトン空港で試験を行ったドローン(一部)。
提供:Stephanie Condon / ZDNET

 Chrisman氏のチームは多様な顧客を惹きつけるために計画的に動いてきた。Spright Drone SolutionsもRangeを利用している企業の1社だ。同社は設備間で医療用の荷物を運搬するUAS事業者である。2022年に入って、SprightはInterpath Laboratoryとともに、検査検体と試験結果を運搬する取り組みを開始した。Yellowhawk Tribal Health CenterからペンドルトンにあるInterpathの主要医学研究所まで、その距離は15マイル(約24km)に及ぶ。この概念実証により、将来は重大な診断の試験結果がずっと早く患者に届けられるようになるはずだ。Sprightはこのペンドルトンを拠点とした取り組みで、目視外飛行(BVLOS)技術を搭載した「Wingcopter 198」ドローンを使用している。

牛の町からドローンの町へ?

 Sprightのビジネスは、今後ペンドルトンのより広範な地域社会に役立つ。一方で、現在Rangeで開発中のドローンは、その多くの用途が、少なくとも今すぐこの町で利用されるものではないと思われる。それはChrisman氏のチームも歓迎していることだ。彼らはRangeのビジネスが成長すること、そしてできれば、並行して米国内の製造業が成長することを望んでいる。Rangeのテナントが最終製品をどこに届けるかは関係ない。

 Abling氏は今後10年間のRangeに対するチームのビジョンを描く。

 「希望としては、UASのハブになり、ここにユーザーに来てもらって飛行試験をしてもらいたい。われわれはこれまで、製造会社を存続させてきた。請負業者に対して、製造会社へのサービスや材料の提供を続けさせてきた」(同氏)

 Rangeはこれから幅広く成長を続けるだろうとAbling氏は語る。

 「広範なUAS事業に対応しながら、北側に格納庫や製造設備を充実させていきたい」と同氏。「これらが今後なくなるとも、縮小されるとも思わない。UASは確実にここで存続していくと思う。そして、最終的にUASが米国航空宇宙システムに統合されたら、われわれはその最前線でサービスや飛行試験機能を提供し、FAAにフィードバックを提供することになる。ルールづくりの面では、われわれは今もある程度その最前線にいる。われわれの業務がFAAのUASに対する考え方や未来の構想に影響しているからだ」

 すべてが計画どおりに行けば、Rangeは最終的にペンドルトン空港の財務上の自立に寄与することになる。これはあらゆる空港、特に孤立した地方にある空港にとっては大きな功績だ。

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