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ヤンマー奥山CDOが語る、企業の文化変革と「草の根DX活動」

藤本和彦 (編集部)

2023-02-16 07:00

 ヤンマーホールディングス(ヤンマーHD)は、2022年度を初年度とする3カ年の中期計画で2025年度に向けた5つの戦略課題を掲げている。その柱の1つが「DX(デジタルトランスフォーメーション)に対応する次世代経営基盤の構築」である。グローバルに人材を最大活用できる人事制度の導入や、効率的な生産・新規技術を確立するものづくり体制の構築をするとともに、ヤンマーHD内にDXを担う新たな部門を発足させ、未来のグループの成長を実現するIT経営基盤を構築することで、デジタル化する世界に対応した次世代経営を目指している。

 その中心人物となるのが、ヤンマーホールディングス 取締役 チーフデジタルオフィサー(CDO)の奥山博史氏。1998年に住友商事に入社し、化学品部門のマーケティングを担当後、スイスInteracid Tradingに最高財務責任者(CFO)として出向。2008年にボストンコンサルティンググループ入社後は、戦略立案・実行、ガバナンス、マーケティングなどの領域を担当。2015年、ヤンマーHDに入社し、経営企画部長、マーケティング部長などを務めた。2018年にヤンマー建機の専務、2019年に同社長に就任。2022年6月からヤンマーHD 取締役 CDOとしてグループ全体のDXを推進している。

 奥山氏は、「ヤンマーHDは中期計画の中で、『顧客価値創造企業』への変革を掲げている。ものづくりだけに捉われず、既存の顧客に加えて、新しい顧客の課題を解決する商品やサービスの提供を目指している。そのための柱の1つとして、デジタルを活用して次世代IT経営基盤を構築するという目標がある」と語る。

 次世代IT経営基盤のコンセプトは(1)お客さまへの新たな価値創出、業務品質・効率のさらなる改善のためにデジタルを最大限に活用、(2)データに基づいた経営・意思決定のために必要な基盤、プロセス、組織、文化の変化のドライブ――になる。

 加えて、同氏はヤンマーHDの中期計画を支え、グループ全体のDX推進を加速させるためのデジタル戦略として「4つの重点取組事項」を挙げる。

草の根のDX活動でグループ全体を盛り上げ

 奥山氏がまず説明するのは、データ活用体制の構築とデータ駆動型文化の醸成だ。「機械学習や人工知能などの高度なデータ分析や情報の可視化を通じ、顧客の価値創造につながるような提案やソリューションに取り組んでいる。データサイエンスのケイパビリティー(能力)を持った人材を育成するといったことも含まれる」と同氏は話す。

 2つ目が「草の根DX活動」になる。これは、社内であまり目立たないながらもデジタルを活用して業務改善をしている人たちによる草の根のDX活動であり、会社としてこれをグループ全体で盛り上げようというもの。奥山氏はヤンマー建機時代の経験から「われわれのようなものづくりの会社でも、よく見ると製造や営業の最前線でアプリなどをノーコード開発し、業務の効率化につなげている人が結構いる」と話す。

 しかもその中には、あまりITとなじみが薄い製造現場のラインに近い従業員や営業やサービスの拠点で活動するベテラン社員などもいる。ただ、そういう人々は自分の中だけで最適化していることが多く、「すごくもったいない」(同氏)と感じていたという。

 その理由の1つには、中間層にいる部課長のデジタルに対する理解度に差があることが挙げられる。奥山氏によると、「(アプリの内製開発などが)上司にばれると業務と関係ないことに時間を使うなと怒られることもある」といい、「みんな隠れてこっそりと」活動しているのが実情だった。「どんな組織でも10%ぐらいはそういう人がいるなと思ったので、そういう人たちをいかに掘り起こすかが重要だと考えている」(同氏)

 そうして集まった人材でコミュニティーを作り、部門をまたいだ交流の場を設けることで、アプリ開発のノウハウなどを教え合い、共有しながら「ものすごく盛り上がった」と奥山氏は手応えを語る。ITパートナーを呼んで勉強会を開催したり、さまざまな成功事例を全社に共有したりするなどして本社としてきっちりサポートしていくことも始まっている。

 「こうした 若干ゲリラ的な活動に加えて、会社全体に向けてのトレーニングの仕組みを構築しており、今年の早いタイミングで全グループ向けにローンチしようと思っている。その際には、現在コミュニティーで活動するデジタルのコア人材を中心に盛り上げたいと考えている」(同氏)

 奥山氏は、最終的に「全社員のデジタル人材化」を目指しているというが、「1歩目からそれを実現するのは無理」だと話す。「まずはコアになる人材を伸ばしたい。そして、その人たちがエバンジェリストとして育ち、各現場を啓もうしていけるようにしたい。そこで生まれた成果を今後はトップダウンで共有すると、中間層にも危機意識が芽生え、企業文化の変革にもつながっていくだろうと考えている」

 この取り組みのもう1つのポイントは、今のところ全て立候補制でコミュニティーが活動しているということ。奥山氏は、各部署から人材を供出するやり方ではうまくいかないだろうと指摘する。「部課長が自部署の業務にあまり影響が出ないように手の空いている人を指名すれば、結局はやる気のない人が集まることになり、盛り上がらないだろうというのは目に見えていた」

 そうならないため、コミュニティーへの参加をまずは立候補制にすることで「すごく意欲の高い人たちが集まってくれた」(奥山氏)という。「グループ全体から見ると、まだ一部の活動ではあるが、ここをきっかけに広げていくというアプローチは、全体の文化の変革という意味では一番遠いようで、実は早道なのではないかと思っている」

 3つ目が、データ基盤の再構築と基幹系システムのモダナイゼーション(近代化)になる。データ分析や草の根DXを継続していくためにも、必要なデータがきちんと供給される仕組みが重要になる。ヤンマーグループでは、データの精度や粒度がまちまちで、分析に利用可能なデータかどうかなど、判断の難しいケースが多く発生していた。グループ全体のアーキテクチャーやプラットフォームの最適化から、データ連携、マスターの定義、カタログ整備なども含め、データ統合基盤の構築が求められているという。

 「基幹系システムも昔に手作りしたものが多く、データ連携も難しい状態になっている。システムを近代化するタイミングに合わせてデータを連携できるようにし、社会や顧客の変化に柔軟に対応できるようなコンポーザブルなシステムにしていくことが重要だと考えている。システムの数が膨大なこともあり、ロードマップを策定して10年単位で進めていくというイメージになる」と奥山氏。

 4つ目は、ネットワークやサーバーなど基盤となるインフラの整備とセキュリティの強化だ。これについては、マネジメント、ガバナンス体制のグローバル強化、セキュリティとインフラレベルの底上げ、システムとデータの重要度に応じたセキュリティ強化に取り組んでいるとしている。

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