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日本デジタルアダプション協会理事に聞く、デジタルの活用・定着化の意義

寺島菜央 (編集部)

2023-03-20 07:00

 デジタル庁が提唱する「誰一人取り残されないデジタル社会の実現」の一助となるべく、2022年10月26日に日本デジタルアダプション協会は設立された。ここでは、同協会の代表理事を務める高山清光氏(Pendo.io Japan カントリーマネージャー)と理事の亀山満氏(元三菱マテリアル 最高デジタル責任者)、同じく理事の松本恭攝氏(ラクスル 代表取締役社長CEO)に、同協会の活動内容や日本企業におけるDXの課題について聞いた。

左から代表理事 高山清光氏、理事 松本恭攝氏、理事 亀山満氏
左から日本デジタルアダプション協会 代表理事 高山清光氏、理事 松本恭攝氏、理事 亀山満氏

--まずは「デジタルアダプション」の定義について教えてください。

高山氏:システムやソフトウェアなどの「デジタルの活用・定着化」がデジタルアダプションの定義だと考えています。ソフトウェアやアプリケーションが世の中を変えていく中で、使いにくいツールがあふれています。日本は資源大国でもないので、人が生産性を高めなければ海外に負けてしまう。その中で、全てのアプリケーションを使いこなす、使いやすいアプリケーションであふれかえる世の中にしていくことが大事だと思っています。

--協会の設立背景や各理事の参画理由について教えてください。

高山氏:デジタル庁は10月をデジタル月間と位置付けています。それぞれの企業がデジタルで何か貢献できないかという考えの中で、私自身がカントリーマネージャーを務めるPendo.io Japanでも施策を考えました。当社では、デジタルアダプションプラットフォーム「Pendo」を提供していますが、体系立ててデジタルアダプションに取り組めていないという課題がありました。

 理由は、新しすぎること、また日本や米国の競合他社が、自分たちが提供する機能を基にデジタルアダプションだと言っていることです。例えば、チャットツールなどの操作支援ツールやオンボーディング支援などです。「使いやすくする」というのは幅広い定義であるため、考え方や方法は多くあります。明確な答えはまだありませんが、さまざまな業界や立場の人で「使いやすさ」の標準化をしたいと思い設立に至りました。

 ご参画いただいた亀山さんにおかれては、エンタープライズの大企業のCIO(最高情報責任者)を歴任されてきたので、大きな会社の目線で感じること。松本さんには、ジョーシスの立場からITの企業が抱える課題を分かっているので、あらゆる観点の方に集まってもらいました。

亀山氏:お話を受けたときには、一言目に「もちろん」と言いました。高山さんの思いに賛同する部分もありましたが、日本の企業や人が持つポテンシャルを、デジタルやITでさらに高めていこうと取り組む一方で、武器となるデジタルツールやソフトウェアをきちんと使えきれていないと感じていました。資生堂や日産、三菱マテリアルという大企業でもデジタル化に注力する中で、きちんと使いこなすことに対して高いハードルを感じていました。

 さまざまな場面で企業の人と話すと、多くの企業が「定着しない」ということを課題に抱えています。特に中小企業では適切なツールが入れられていない、ツールを入れたがうまく動かない、使い切れていないなど、このような課題を解消したいと思っていたときに話があり、ロジカルに取り組めると思い賛同しました。

松本氏:私が代表取締役社長CEO(最高経営責任者)を務めるラクスルは、物流や印刷など、最終的な成果物はソフトウェアではなくフィジカルなものでしたが、この2~3年でソフトウェアを作り、提供するという形に移行しています。その中で感じたことは、Pendoを使うと全てのデータが可視化され、これを活用することで顧客にさらなる価値を届けられる。やはり、デジタルは導入よりも、いかに使いこなすかによってそのパワーや可能性が解放されていくと感じています。そのためには使いこなすための知恵や啓もう活動が非常に重要だと、自分自身がユーザーとして体感しました。

 私たちが提供する「ジョーシス」も、実際に現場で活用されなければ導入しても意味がありません。「ソフトウェアを導入する」「DXで新しいツールを入れて生産性を上げていく」という導入までの話が中心になりがちですが、導入後にいかにツールを活用してビジネスの生産性を上げていくか、そしてそれを定着させ、組織運用の中に落とし込むか、というのが肝になります。活用や定着化にフォーカスした高山さんの取り組みは日本にとって意味のある活動になると思い、話を受けました。

--活動としてはどのような取り組みを行うのでしょうか。

高山氏:10月末に設立し、企画を立て実際に動き出そうとしているのがこれからになります。まずは3、4月にデジタルアダプションがどのようなものかという内容のセミナーを行う予定です。また、この協会を大きくするため、ほかの団体との情報交換や共同イベントをしていきたいと考えています。その一つとして、ノーコード推進協会との共同イベントを計画しています。ノーコードでアプリケーションを簡単に作れるようになった反面、作った後の稼働や運用、より使いやすくするという意識があまりないという課題があり、改めて「使いやすいとはどういうことか」を議論する場にしたいと考えています。

 また4月以降には、デジタルアダプションに関する標準化を具体化していきます。例えば、ツールを使いこなせているかレベル選定を行い、最終的にはアワードの実施などを考えています。

--ノーコード/ローコードツールは普及しつつありますが、課題感としてはいかがでしょうか。

高山氏:ある企業では、現場でノーコードを活用したアプリが1000個作られたそうです。そのアプリはIT部門も審査しますが、作成後、どれだけ使われているのか、部署異動したら使えなくなるなどの課題を抱えていました。

亀山氏:ノーコード/ローコード開発は、実際に使う人がソフトウェアを作るということで良いことです。しかし、ただ作成しても、部署異動したら誰も使わない、数年たったら動かないという状況も多くあるので、最低限、どのようなアプリなのかを可視化したり、メンテナンスしたり、教育する必要があると思います。

松本氏:ノーコード/ローコード開発は今後とても普及すると思います。全体の流れとしては、ノーコードという非エンジニアが行う部分と、ヘッドレスというAPIベースで行う部分があるように世界は進化すると考えています。一方で、自由度が高くなる分、データベースのレイヤーで何のデータを取り扱っているのかという整理が難しくなり、IT部門は企業の何の資産(データ)がノーコードアプリに入っているのかを全部確認しなければならず、そのような複雑性は増すと思います。

高山氏:ノーコードでなくても、アプリケーションが増えることで情報漏えいの可能性が高まることにもつながります。IT部門としてガバナンスを効かせることが難しくなるので、アプリケーションを作る上での機能の制約が本当は必要です。内製化のトレンドにあるように、作成を社内ではなくシステムインテグレーター(SIer)に任せるとなおさら分からなくなりますし。

亀山氏:そのガイドを作るのも良いと思います。また、データの部分はブラックボックスになると、濁ったり見えなくなったりして全部捨てなければならないので、規定を決める必要はあります。

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